わがまま
君の心音が、ゆっくりと、落ち着いていく。君の脈拍が、ゆっくりと、静かになっていく。
僕は何の言葉もかけることなく、ただじっと、寂しそうな君の瞳を見つめる。
病室に響く無機質な機械音が、真っ直ぐに伸びてから、そっと君の手に触れた。
「おつかれさま」
隣にいる君の両親は、言葉が発せていない。喉を詰まらせる嗚咽に、苦しそうに涙を溢れさせていた。
「最期まで、君は君らしかったね」
視界が霞むような気がした。けれど不思議と、悲しくないんだ。
まだ、実感がない。というより、最期まで君らしかったことを、誇りに思う僕がいた。
「いつも強がってばかりで、今日くらい、弱音吐いたって良かったのに」
いささか声が震えている。やっぱり、悲しい、悲しいよ。大好きな君が、僕よりも何十年も早く死んでしまうなんて、信じたくもない。
「……あれが、君の最大限の弱音、だったのかな」
ふと頭に浮かんだことに、心臓を鷲掴みにされるような、息苦しさと、胸の痛みを感じた。
最期だから、君の言うことに従うべきだったのか。最期だから、君の言うことにこそ反するべきだったのか。
今更、君は答えを教えてはくれない。
「君の大好きな猫にでもなって、すぐ会いに来て」
僕からも、ひとつ、わがままだけど。人間でまた再会するには、年月のズレが大きすぎるからさ。早く、会いにきて。
優しくしないで、なんて、そんな君のわがままを、僕がちゃんと聞けたことに、ありがとうって、笑って見せて。




