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欲しいもの
「欲しいものがあればすぐに言いなさい。パパがなんでも買ってあげよう」
うちのパパは、ずーっと昔からそれが口癖。私がちょこっと新しい玩具を見てるだけで、
「欲しいなら買ってあげようか」
ってすぐに言うくらい。だから私は幼い頃から、欲しいものは何でも買ってもらった。洋服とか、カチューシャとか、絵本とか。他の子よりもずっと早く、携帯も買ってもらった。
前はそれが嬉しかったんだけど、今は全然嬉しくない。何も欲しくない。どれを貰っても、心が満たされない。
だって、本当に欲しいもの、貰ってないもの。
「パパ。私、欲しいものがあるの」
「おや、久しぶりだね。何が欲しいの?」
滅多に「欲しい」と言わなくなったせいか、パパはうちの言葉を聞いてとっても嬉しそう。これだけ喜んでくれてるなら、きっと用意してくれるよね。だってなんでも欲しいものをくれる、パパだもん。
「あのね、うちね。――ママが欲しい」
死んじゃったママだって、生き返らせてくれるでしょ? パパ、お願いね。




