ねぇママ。
ねぇママ。僕の声聞こえる?
ねぇママ。僕の姿見えてる?
ねぇママ。どうして僕を産んだの?
ねぇ……ママ。
*
「寒いよ、ママ……」
黄色くて明るい、まんまるなお月様が、真っ暗なお空に浮かんでる。今日は風が強くて、ママの代わりに僕を殴ってくる。
窓の向こうから聞こえるママの笑い声。カーテンが閉められてて見えない。また知らない男の人と遊んでるのかな。
いつもは手が痛くなるまで窓を叩いてるけど、最近はあまりやってない。それをするとママは、とっても怒る。殺されそうなくらいに、ママは怒る。
だからやめた。僕が我慢すればママは怒らないってわかった。それでもたまに怒らせちゃうけど、前よりはずっと怒らなくなった。
夜になると僕のことをベランダに出すママ。太陽が昇ってきたくらいで入れてくれるのは機嫌が良い日。機嫌が悪い日は、太陽が昇って、また沈む頃までベランダにいるしかない。
一回、逃げちゃおうかなって考えた。二階建てだから、下を見たら逃げられそうって思った。でも、いざ逃げようとしたらタイミング悪くママに見られちゃって、死ぬよって言われた。僕は死ぬのは嫌だったから、大人しくママに殴られた。
やめてって叫んでも、助けてって叫んでも、ごめんなさいって叫んでも、ママは聞いてくれないの。無視する。いろんなことを怒鳴りながら、ママは僕のことを殴る。
僕が何を言っても聞いてくれないことばかり。僕のことが見えてないみたい。いらない子みたい。だってすぐに僕のこと、ベランダに追い出すし。
ねぇママ。死ぬって、どんなこと?
ねぇママ。それって、温かい場所で眠れること?
ねぇママ。それとも、ママともう会わないってこと?
あのね、ママ。
僕、死にたくないよ。ママといっぱいお話しして、いっぱいぎゅーしたいよ。あったかいご飯食べてね、あったかいお布団で一緒に寝てね、僕、ママとしたいこといっぱいだよ。
だけど、ママ。一回、死ぬってこと、僕体験したいんだ。ママのところが1番なんだって確認したいんだ。ママは本当は僕のこと、好きでいてくれるって思いたいんだ。
だからばいばいしてみるね、ママ……――
本当はホラーの予定でした




