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空を泳ぐ
何も無い緑一面の場所に、私は仰向けに寝っ転がった。眼前に広がる空。視界は青と白で埋め尽くされた。
動きの速い雲と、動きの遅い雲。私からの距離が違うんだろうな。ぽつりと呟き、手を伸ばした。私の指先は、空を切って握りしめられた。
何も掴めなかった。
生きてた理由も、生きていく目的も。それから、大切な親友や大好きな恋人。楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、そんな思い出達。
私はどうやって生きてきたのかさえ、分からなかった。私の手の中には、何一つ、握りしめられてなかった。
吸い込まれそうな空。むしろ吸い込まれてしまいたい。何もかも忘れて、空を泳いでみたい。空の中を、永遠に。
「さて、歩くか」
それでも私は、歩いていく。誰かに何かを許してもらえるまで。




