05
「・・・くすっ。ボス、ちょっとやりすぎたんじゃありません?」
「む?東雲、見てたんか。」
ひたすらに射撃訓練を続けるシェリーを見つめる安藤保と東雲環。
「あんな射撃が出来るの、ボス以外に居ませんよ、この隊には。・・・よほど気に入ったんですね、あの娘のこと。」
「・・・まぁ、色々あってな。あいつは、ちと理由有りなんよ。」
「ワケアリ?―――そういえば、この時期に人事移動だなんて随分急な話だとは思いましたけど・・・。」
「―――昔、な。俺の人生を変えた男が居た。その男の―――忘れ形見なんだよ、あいつは。」
「・・・へぇ。ボスのそんな話、初めて聞きましたよ。―――凄い人だったんでしょうね、その人って。」
「・・・ああ、凄い男だった。俺なんか足元にも及ばねぇくらいな。」
「ボスがそこまで!?」
「・・・おい、お前俺をなんだと思ってんだ?」
「・・・んと、憑きモノ以上のバケモノ?」
「・・・あのねぇ・・・。」
「あはは、冗談ですってば♪(あながち嘘でもないケド・・・。)」
「・・・その男が、10年前、何者かに惨殺された。当時向かった隊員の話では、そりゃあものすげぇ有り様だったらしい。五人家族でな、妻は胴体まっぷたつ。長男と次女は首から上を引き千切られて―――当の本人は、両足を引き千切られた上に、頭部切断で即死。・・・検死の結果じゃ、両足は死ぬ前に断絶されてたらしい。そんとき救助した長女も左脇腹を撃たれ重傷。・・・調べたら、父親が握ってた拳銃の弾紋と一致。・・・つまり犯人は、父親に自ら長女を撃たせて、殺そうとしたわけさ。その重傷の長女が、シェリー・モーガン。つまりあいつってわけよ。」
「・・・酷いですね・・・。でも、ガイシャの傷跡が、引き千切られた・・・ってことはもしかして・・・。」
「ああ。そんな人間離れした殺し方、まっとうな人間に出来るわきゃねぇ。憑きモノさ。それも、かなり頭のイカれた、な。」
「・・・シェリーは、そのことを?」
「多分知ってる。だが、あいつは怪我が回復してからもしばらくショックで言葉を失っててな。CBCに自ら志願するまで、いつ自害してもおかしくない状態だったもんで、事情聴取も免除されたんだ。」
「・・・つまり、あの娘がCBCに入ったのは、家族の仇を取るため・・・。」
「恐らくな。・・・7歳で訓練所に入り、3年後にはCBC特殊支援部隊に所属。更に3年後に前線部隊に配属。そっから僅か4年で少佐階級まで異例の最年少スピード出世。・・・まぁ、持って産まれた才能もあんだろうが、そこまでがむしゃらな理由ってのは、大概予想がつく。・・・あいつは、ほっといたら死に急ぐタイプだな。」
「・・・だから、あの娘をこっちに呼んだんでしょう?」
「・・・まぁ、な。―――おかげで、イギリスのバーナーの野郎にはこっぴどく叱られたんだが。どーもあいつとは昔からウマが合わねぇ。」
「―――ふふっ、でも、よく見つかりましたね?」
「事件のことは知ってたが、その娘が隊に所属してるとは思わなかったもんでよ。―――異例の新人が居るってんで名前を聞いたら、シェリー・モーガンってんでまさかとは思ったんだが。」
「・・・そうだったんですか・・・。」
「―――あ。この話、あいつにゃナイショな?―――こんな話聞いた日にゃ、「あたしは独りでも大丈夫だ!!」なんてキレて米国に戻りかねんからな。」
「―――さーて、どうしましょーかねー。」
「おいおい。頼むぜ、環〜。」
「・・・うふふ、冗談ですよ、冗談。・・・ボスの貴重な過去話も聞けましたしね。それに免じて、内緒にしといたげますっ♪」
「―――はぁっ。ひやひやさせんなよ、まったく。」
「あははっ♪」