02
―――夢だ。
多分あたしは夢を見ていた。余りに鮮明に焼き付いた、悪夢。
「―――っ!」
目を覚ます。朝は大体こうだ。もう慣れた。この悪夢も、あれからずっと、消えることはない。
10年前―――。突然あたしの家族を襲った、悪夢。悲劇?いや、あんなのは悲劇とは呼ばない。ただの惨劇だ。それも、三流の。
まずは母親が殺された。あの化け物は、母親を一瞬で胴体と下半身に分けた。一瞬の話だ。次に、12歳になる兄。そして二つ下の妹。父は最期まで戦った。だが、あの化け物の手で、頭を吹き飛ばされて死亡。ヤツは楽しんでいた。その化け物じみた力で、人を殺すことを。―――右手の甲に、ドス黒い十字のアザを持つ男。
唯一生き残ったあたしも、瀕死の重症だった。左の脇腹を、拳銃で撃ち抜かれた。父の銃だった。あの男は、よりにもよって父の手を使い、あたしを撃ち抜かせたのだ。あの時の父の顔は、忘れられない。
あたしはその後、生死の淵をさまよった。よくは覚えていないが、救出に来た隊員が言うには、即死でもおかしくないほどの量の出血だったらしい。左脇腹損傷。肋の骨は完全にイってたらしいし、心臓を紙一重で避けていたことも奇跡に近かった。
生き残ったあたしは、このCBCの一員となった。・・・どちらにしても、家族を皆殺しにされ、行く宛てもないあたしは、施設に入るか、路頭に迷うかどちらかしかなかった。
CBCは、合衆国・日本・英国、そしてその他の国際連盟加入国をスポンサーに、極秘裏に設立した特殊調査室だ。公に出ることはないが、世界中で起こる極々特殊な事件に対処するために、合衆国の提案で設立されたとされる。・・・一部じゃ、東南アジア辺りの宗教家や思想家のお偉いさん方を敬遠するための処置だとかも囁かれているが、あたしは政治には興味がない。・・・唯一興味があるとすれば、あたしの家族、そして人生を奪ったあの化け物―――ヤツの息の根を止めることだけだ。
「―――あら、起きたの?ずいぶんうなされてたわね。」
「・・・どうもふかふかのベッドにゃ慣れてなくてね。―――それより、今何時?時差ボケ、キツくてさ。」
「1005。今日は非番でしょ?」
「―――んげっ!もうそんな時間!?やべー、こっちの長官に挨拶しに行かなきゃなんねーんだよ。」
「あぁ、ボス?だったら―――」
突然、ドアが開く。
「―――おうっ!お前が米国から派遣されてきたってぇ娘かーー!!」
・・・なんだ?この妙に暑苦しいおっさんは。
「―――あ、ボス。ダメですよ、女の子の部屋に入る時はノックしないと。」
―――ボスぅ!?このおっさんが?
「わっははは!わりぃわりぃ、ついな。いやはや、しかし・・・。」
・・・うん?なんだ、このおっさん。あたしのことをジロジロと・・・。
「米国からの特殊調査官っつーからどんなイカツイやつかと思ったが・・・うん、まぁ発育具合は微妙だが器量はまずまずってとこだな!!わっはっは!!」
―――っ!こいつ―――
「―――シネぇぇ!!!!」
と、あたしの鉄拳が炸裂する前に。
「―――ボス。それ、セクハラですよ♪」
「・・・あがっ・・・がが・・・っ!」
彼女の手に握られたスタンガンが炸裂していた。・・・てかあれ、熊用じゃねぇか?最大出力110万ボルト・・・。
「・・・あがっ・・・ががががっ!」
・・・恐ろしい。綺麗な顔して、鬼だな、この姉ちゃん・・・。