ようこそ、WFOへ
ブーーーーン
空に響く轟音。恐らくこの音を聞いた先人達は恐れただろう。
空気を切り裂くその音は芸術なみだ。
零式艦上型戦闘機。通称零戦。
第二次世界大戦当時、驚くべき速度と旋回能力で世界最強とまで言われたものだ。世界で初めて、20㎜機関砲を備えた戦闘機だ。戦争開始直時は劇的な活躍をしていたが、戦争中期になるとアメリカ軍による、対零戦戦法やF4UコルセアやF6Fヘルキャットなどの登場により、劣勢となった。
しかし、ジェット機などの最新戦闘機が主力になった今でも日本をはじめ、世界で人気だ。なんせ、零戦に使われた技術は今となっても使われているのだ。
そして、今。
最新の技術により、ほぼ、現実に近い形で戦闘機や戦車などの体験できるようになった。
俺こと、空島疾は空戦を繰り広げていた。
「一機撃墜!」
ズガガガガッッッ!!
20㎜機関砲が放たれる。厚さ4㎝の鉄板を撃ち抜くだけあって威力は抜群。
「さすがは、WFOだ!」
なぜこのようになったかというと………
2078年。
アメリカの大手ゲーム会社、クラフトオブゼロが開発した最新のゲーム機である。GWが発売された。当初はゲームセンターの中でしか見かけなかったが、改良が重ねられ、HGWが発明された。
開発当初は大きなカプレル型の装置で、中に入ると意識が自動的にネットの世界へ行くようになる。
値段は1時間500円とかなり高めだったが、それでも爆発的に人気だった。特に、人気だったのが、ドラゴンク○エストだった。
この機械のすごいところは、映像なのに、感覚が伝わるのだ。痛みも調整すれば、かなり現実的な痛さで味わえるし、食事も、味をちゃんと感じられるのだ。
それが、今は自宅で楽しめるようになったのだ。
値段は、一機22万円とかなり高かったが、それでも、発売の1ヶ月も前から大手電気店や、ゲームセンターには沢山の人が並んでいた。連日、マスコミが駆け寄っていた。
ネット通販でも、予約開始1分で品切れになってしまった。多分今買えば2年待ちくらいじゃないか。
俺は、並ぶのが嫌いだからネットで注文した。幸い、従兄弟が大手ネット通販会社で働いていたので、割と早めに届いた。
値段は、ソフト付きで30万円。ソフトだけでも、3万。それに、取り付け費も7万もするのだ。買うためにどんだけバイトをしたことか。無論その金も残り少しだ。
見た目は、全自動マッサージ機みたいなものだ。特徴的なのは頭の方に、パーマをかける時にかぶるヘルメットのようなものがあることだ。
「えっと、まずは、HGWに腰掛けてあなたの体格を登録してくださいか……」
ゲームを始めるのにはまだまだ、時間がかかりそうだ。
1時間後。
登録完了。
いろいろと面倒なことがあったが、やっとプレイできる。
おれは、最近出来たばかりのソフト、WFOを挿入し、腰掛けた。
「セット完了。あとは……」
この上にある、でっかいヘルメットをかぶせるだけだ。おれは、両手で引っ張り固定をし、ボタンをおす。
「いざ、オンラインの世界へGO!!」
だんだんと意識が失っていく……
こうして、おれの戦争が始まったのだ。
「ち、後ろにつかれたか!」
油断していた為に、敵戦闘機に後ろをつかれてしまった。
後ろからはマシンガンの音が聞こえる。おれは、零戦の旋回能力を生かして、海面ギリギリで避けている。
相手は、ワイルドキャットにのっている。ワイルドキャットは零戦に比べれば劣っているが、マシンガンを4丁も備えている。
普通なら当たっても問題なく飛べるが、零戦は速度と攻撃を特化したため、装甲がかなり薄い。一発でも当たればそこに引火して爆発してしまう。
海面の反射を利用してなんとか避けているが、一歩間違えれば、海面に激突してしまう。相手も、無駄打ちだと思ったのか打ってこなくなった。
普通ならここで上昇するだろう。
「へ、そんなのお見通しだ!!」
恐らく、上昇した瞬間にマシンガンで、撃ち落とすきだ。
だが、このままだと決着がつかない。
俺は、船体を斜めに傾け、右に旋回しながら少しづつ期待を上昇させた。その間に、ワイルドキャットの集中砲火が来たが、当たらない。零戦ならでは旋回能力を生かした技法だ。
名付けて……
「竜巻上昇!」
ネーミングセンスが無いに等しい俺にとってはこれが傑作だ。
「へへ、さらばだぜ!」
おれは、竜巻上昇からのきりもみ上昇をし、雲の中へ逃げた。
そこまでは良かった……
「ち、ついてきてやがるな。」
零戦に使っている栄エンジンとは違ったエンジン音が後ろから聴こえる。
相手も、おれのエンジン音を頼りに、ついてきてるようだ。零戦のエンジン音は独特だからすぐわかるのだろう。
幸い、あちらも姿が見え見えてないようなのでマシンガンを打ってこない。
ここは、雲を抜けて、一対一のバトルをするしか無い。もうそろそろ、時間切れだろう。
これは悪魔でゲームだ。死ぬわけじゃない。
俺は覚悟を決めて、操縦桿を上げようとした時……
「なんだ? 雲が急に濃く……」
ピカー!!!!
突然辺りが急に光りだした。
「雷!? そんなの聞いてないぞ!?」
突如として、雷が落ちてきた。運がいいのか当たらなかった。
だが、後ろから爆発が聞こえた。後ろを見ると、ワイルドキャットが墜落していった。
天気の設定で、選択肢に嵐があったが、今回は曇りだったはずだ。
よーく見ると、辺りに稲妻が走っている。積乱雲の中っぽい。
このままだと、いつ墜落してもおかしくない。墜落すると、その分ポイントが減ってしまう。
折角、78機も撃墜したのが、パーになってしまう。だから俺は、雲の上に行くことにした。
設備された酸素マスクをつけ、雲の上を目指す。その間に暖房機能がないので、ガラスがくもり、前がほぼ見えない。エンジンもなにやら、不調気味だ。頭もクラクラしてきた。
「もう少しだ!頑張れ!」
操縦桿を握る腕が痺れてきた。だけど放す訳には行かない。
根性で耐えていると、少しだけだが光が見えてきた。
そして……
「よっしゃー!! 出たぞ!!」
あまりの感動に、酸素マスクをしながらも大声でさけんだ。
太陽がまぶしい。ゲームなのにこの感動はなんだろうか。
「さて、そろそろ時間切れだな。」
残り、20秒。本当に危なかった。
ステータスを見る。
空島疾
墜落数 0
撃墜数 78
ランキング 1位
合計 15600ポイント。
「よし、これで念願の零戦五二型が買えるぜ!」
これで、終わりだ。今日はここまでにして、買うのは明日にしよう。
俺は、シャットダウンのボタンを押した。これで、10秒後には現実世界へ。
おれは、目を閉じた。
普通なら、俺の目の前には部屋が映るはずだ。だが……
「あれ? なんでまだ乗ってんだ?」
もう一度、シャットダウンのボタンをおす。たが、いくら押しても景色が変わらない。
「まさか、バグか?」
このゲームの開発段階では、ある問題が提唱されていた。
それは、意識がゲームの世界から、出れなくなる現象だ。
この点に関しては、プログラムの中に、3時間以上使うと、強制シャットダウンが組み込まれている。
プレイ時間を見ると、3時間15分45秒。とっくに過ぎている。
「まさか……」
最悪のパターンが浮かんできた。とあるラノベのような状態になってしまったかもしれない。
でも、このゲームにはゲームの世界で死んだら現実の世界で死ぬなんてことはない。
なので俺は、わざと墜落することにした。戸惑いながらも操縦桿を下げた時……
「なんだ?急に暗くなったぞ?」
上を見てみると……
クギァァァァァァア!!
ドラゴンが羽ばたいていた。