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結局、駆け付けた兵士たちによってバリン達は城の裏手に埋められたらしい。
その場の混乱はすさまじいもので、誰一人としてマーリンが脱獄したことなど気にも留めていなかったのをいいことに、佐和達はその場を後にした。
ウーサーに頭を冷やすよう言われたアーサーが私室に戻るのに付き添い、今は部屋で三人で沈黙している。
椅子に座り、膝においた手に額をつけ考え込むアーサーと、壁際に立ち尽くすマーリンの瞳はどちらも暗い。
それもそうだ。
マーリンにとっては悪夢の再来。
アーサーにとっては王子として落胤を押された事件。
とても落ち込まずにはいられない状況だった。
こんな時。
こんな時、海音ならどんな言葉を二人にかけるのかな……。
いくら考えてもその答えは浮かばない。海音が何を言うかなんてわからないのに、それでもその言葉がこの二人の心を救う事だけは簡単に想像がついた。
私と違って、海音がここにいれば……この二人の心を救えるのに。
いや、そもそも海音が来ていればこんな悲劇は起こらなかったのかもしれないのだ。
……これも私のせい……か……。
覚悟していたはずなのに、想像以上に……辛い。
人の生き死の全ての責任が自分にのしかかるなんて。
バリン達が本当に正しい運命の元なら生きられたのか。それは誰にもわからない。
だから、私のせいとはもちろん言い切れない。
でも、私のせいではないとも絶対には言えないのだ。
……きつい、な。
その時、沈黙を破るように扉がノックされた。アーサーが目で促したのを見て、扉に一番近かった佐和が扉を開けた。
「失礼します。殿下」
扉から入って来たのは一人の兵士だった。敬礼をした兵士はアーサーに向かってすらすらと報告をあげた。
「先程の侵入者以外不審者は見当たりませんでした。警備も通常に移行します。以上、ご報告です」
「…わかった。下がれ」
扉が閉まった後も重い空気は変わらない。沈黙の中、アーサーがゆっくりと立ち上がった。
「殿下?どちらへ?」
佐和の目の前をアーサーは素通りすると、扉を開けた。
「……着いて来い」
佐和とマーリンは互いに顔を見つめ合った後、何も言わずアーサーの後について行った。