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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第三章 王の素質
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page.89

流血表現があります。ご注意ください。

       ***



 佐和達が謁見室に駆けつけた時にはちょうど、アーサーとバリンが切りあっているところだった。


 「殿下!!」


 マーリンが叫んだ事で、こちらに気付き見上げてきたアーサーの顔は土気色だった。

 アーサーの戸惑いがこちらまで伝わってくるようで、佐和には痛々しい。

 やっぱり、バリンを無心で斬るなんて、できなかったんだ……!

 部屋の中にはアーサーの後ろで烈火のごとく怒り狂い怒気を発しているウーサーと、床に跪いたバラン。そしてそれを押さえつける兵士が一人。床にはバリンに切られただろう兵士が倒れている。部屋の前の見張りの兵士も同じように切られていた。

 アーサーは少しだけ呆然としたようにこちらを見ていたが、やがてなぜか薄く微笑むと剣に力を込め直している。

 直感的にバリンを切ろうとしているのだと、すぐにぴんときた。


 「殿下!ダメです!バリンを切っては!」


 今にも振り降ろされようとしていたアーサーの剣がマーリンの言葉で止まった。

 その様子にアーサーの後ろに立っていたウーサーの目が怒る。


 「何をしている!従者の言う事など無視しろ!アーサー!早く始末をつけるのだ」

 「殿下!ダメです!あなたは知っているはずだ!バランは悪くない!バリンも魔術師に利用されてるだけなんです!バランの無実を調べれば、それで済む話なんです!」

 「いい加減にしろ!何もわからない従者風情が、出すぎた口を叩くでない!!」


 ウーサーが自ら腰の剣を抜いた。大股で跪いたままのバランに近寄ると服を乱暴に掴み立たせると、その喉元に剣を突きつけた。

 剣を突きつけられたバランの喉がなる。その目から涙が次から次へと溢れている。


 「バラン!!」

 「……父上?」

 「兄ちゃん……!!」

 「魔法を使うものは全て等しく悪だ!一つ許せばまた悪の連鎖を招く。例外は弱さと捉えられる。大切なのは秩序だ。全ての国民が意識を一つにすることで真の平和は訪れる。アーサー。お前もいずれわかる。国の平和を守るために大事なのは、個人の斟酌(しんしゃく)ではない。統一された法と罰が秩序を生むのだ」


 バリンとアーサーが同時にウーサーに駆け寄ろうとした。

 佐和の横でマーリンも懐に手を入れた。その様子を佐和はスローモーション映像のように見ていた。

 誰も間に合わない。

 そう思った瞬間、全員の目の前でウーサーがバランの小さな喉をかき切った。血しぶきが飛びちり、バランの涙が止まった。

 何が起きたのか一拍遅れて理解がやってきて、佐和は息を飲んだ。

 ウーサーが手を放すと、バランの小さな身体は力なく倒れた。


 「幼さなど関係ない。王として平和を守るための選択をする責務と重さ。お前もいずれわかるようになる。ここで手本を見せるのはお前のためだ」

 「バ……バラン……?」


 その場にバリンが崩れ落ちる。手から剣が転がり落ちた。

 もはや誰一人動けなかった。

 駆け寄ろうとしていたアーサーも、懐に手を入れたままのマーリンも、この結末に思考が付いていっていない。

 ただ一人ウーサーだけが堂々と座り込んだバリンに近寄り、剣を掲げ直した。


 「その者バリン。魔法に関わった罪でそなたに極刑を言い渡す」


 座り込み、倒れたバランを見つめているバリンの見開いた目から涙がこぼれた。ウーサーの非情な声にゆるゆると挙げた顔が歪んで、笑った。


 「お前は王になんかふさわしくない」


 ウーサーは一太刀でバリンの首を跳ねた。血を梅雨払いし、鞘に戻す。

 その間も佐和たちは呆気にとられ、誰ひとり動けなかった。


 「アーサー。そなたには失望した。少し頭を冷やせ。これ以上余を失望させるでない」


 遠くから兵士が大勢駆け付ける音が聞こえる。佐和達は誰一人動くこともできず、床に倒れ、冷たくなった幼い少年たちをただ見ていた。




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