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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第三章 呪われた愛しいプレゼント
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 ***



 アーサーはあの後、いくら呼びかけても出てきてはくれなかった。

 仕方なく、マーリンの部屋に戻って来た佐和はマーリンをベッドに寝かせて、自分は桶に水を汲みに井戸へ向かった。

 マーリン、しんどそうだったな……。

 部屋に戻ったマーリンは、張りつめていた糸が切れたように、倒れた。意識はあったものの、息はあがり、無理が祟っている様子だった。

 城の裏手にある井戸で水を汲んだ佐和は、城内を歩きながら考えに耽っていた。日が沈み始めたからか、城の通路を歩く人も少ない。ぼんやり考え事をするのを止められなかった。

 今まで、アーサーが魔術師と関わってきた出来事を一つずつ思い返してみる。

 魔術師にだけ異常な冷酷さを向けるアーサー。

アーサーに向けたカンペネットの厭らしい目つき。

「どうしてアーサーは魔術師にだけああなってしまうのか」と聞いた時のケイの困ったような笑顔。

 それらが脳裏に浮かんではすぐに消えていく。


「俺の出生には魔法が深く関わっているんだ。だから、俺は魔法に関する事で、父上のやることに異を唱えることはできない。……これ以上は言えない。王族の機密事項だ」


 あれは一体、どういう意味だったのだろう……?

 マーリンの部屋までたどり着いた佐和は、扉の前に人が立っていることに気付いた。その人物も佐和に気付いて手を振っている。


「よ、サワ―」

「ケイ?どうしたの?」


 扉の前に立っていたケイに佐和は駆け寄った。


「いや、マーリンのお見舞いにな。入っても大丈夫か?」

「もしかしたら寝てるかもしれないけど、どうぞ」


 二人でマーリンの部屋に入ると、マーリンは横になっていたものの、目は開けていた。


「よ、マーリン。御手柄だな」

「……ケイか?」

「ああ、起きなくっていいって」


 ケイはそう言ったが、マーリンは上半身を起こすと、ケイに向きなおった。


「見舞いに来たけど、体の調子はどうだ?」

「少し楽になった」


 確かにさっきよりは顔色が良い。少し寝たからかもしれない。息もあまり上がっていない。


「そっか。そいつは良かった」


 椅子に腰かけたケイと話しだすマーリンを横目に、佐和は桶を置いたり、さっきまで使っていたタオルを片付けたりし始めた。

 もう少ししたら、マーリンとバリンの代わりに佐和がアーサーの夜の食事を用意しに行かないといけない。


「……ケイ。バランはどうなるんだ?」


 マーリンの低い声に、佐和は作業の手を止めた。尋ねられたケイはただそのまま答えた。


「明日、正午。死刑だ」

「……そんな……だって、絶対、無実なのに……」

「なんでサワ―はそう思うんだ?」

「だって……」


 ずっと、佐和の中で引っ掛かっていた事がある。

 ウーサー王の前では萎縮してしまって、とても言い出せなかったが、バランが犯人だとしたら説明がつかない事があるのだ。


「だって、バランが暗殺の手伝いを意識的にするなら、もっと自分に疑われないやり方をしない?」


 ウーサー王の統治は浸透している。魔術による暗殺だとわかれば、必ず関係者全員を処罰するだろう。それなら自分が運んでいたら、どんなに言いつくろっても処罰は免れない。


「ま。そうだろうな。あのガキにそんなことをする知恵も動機もなさそうだしな」


 どうやらケイも同意見らしい。ただ、ケイには憤慨した様子も、同情した様子もない。


「ケイ、どうにかならないの?」

「俺?一介の騎士に、そんな権限はないよ。ウーサー王の決定は絶対だ。覆せる可能性があるとしたら……同じ王家の人間ぐらいだ」


 ありえない事だけどな。と付け足したケイの様子を見ていたマーリンが口を開いた。


「……ケイ。教えてくれ。どうしてアーサーは魔法に関して、意見することが許されない。あいつは『自分が魔法で生まれた』と言っていた。それはどう言う事なんだ?だから、陛下には意見できないって、どうしてあいつは正しいとわかってることも、黙らざるをえない状況にいるんだ」

「……それ、アーサーから聞いたのか?」


 驚いたケイの声が真剣になった。

 マーリンの言葉の意図を図ろうと、ケイが真っ直ぐマーリンを見つめる。頷いたマーリンを見ていたケイは、姿勢を正すと、佐和の事を手招きした。


「……ホントは口止めされてるんだけどな……アーサーが自分からお前らに話したなら……サワも座ってくれ。……長い話になる」


 ケイは自分の座っていた椅子に佐和を座らせると、自分は佐和達の前の壁に寄り掛かった。


「当時の関係者には箝口令が布かれている。俺も城に来て、色々と情報を集めて知った話だから全部が正しいとは限らない。けど、アーサーに尋ねたら絶対に誰にも言うなと言われた。だから、おそらくこれは真実だ。でも、お前らにアーサー自身が話したというなら……話そう。23年前、この国で起きた悲劇を」


 アーサーの出生の秘密を話すためには、まずこの国の成り立ちから説明しないとな。と言ってケイは語りだした。




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