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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第三章 呪われた愛しいプレゼント
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page.72

        ***



 丁寧に、丁寧に、一本ずつ王子にリクエストされた花をまとめ上げていく。白とピンクの花を基調とした花束はそれでいて、上品に仕上がるように要求されている。

 店の中でも最上級の紙で出来上がった花束を包み、仕上げに真紅のリボンで花束を結びつけた。


「…………例の物は取ってきてくれた?」

「ここにある。こんな物を何に使うんだ?」


 裏口の扉の前に立っていた男は、小さな袋をモルガンに差し出した。袋の中身が小さくもがいている。


「あなたの復讐に役立てるのよ。カラドス卿」


 今、この作業場には自分とこの男しかいない。

 モルガンは真紅のリボンを手に取り、そっと口に近づけた。


 「モウ……カタラ……セドゥミィ……オポノス」


 呪文を小声で唱え、カラドスから受け取った袋の中身に手を伸ばす。袋の中にはカラドスに森で狩らせた毒蛇が入っていた。牙をむく蛇に意志を強く向け、反抗できないよう弱らせてからつまみあげると、その頭を押さえつけ、牙から毒を出させ、花束のリボンに垂らした。


 「クリーヴォ」


 最期に毒を染みこませた跡が見えないように、隠ぺい呪文をかけ、出来上がった花束に満足感を覚え、掲げる。


 「それで奴をやれるのか?」


 復讐に駆られた男はかつてのような気品を感じさせない形相で、興奮している。

 プライドをへし折られた人間ほど見るに堪えないものは無い。だが、モルガンの悲願を達成するために、まだまだこの男には働いてもらわなければならなかった。


 「これは一石を投じ、最初の波紋を生み出すきっかけにしか過ぎない。しかし、いずれこの一石が大きな波紋を呼ぶこととなるだろう」


 モルガンの言葉にカラドスは裂けそうなほど口を開けて笑った。

 その目はもはや貴族などではなく、血に飢えた猛獣のそれだ。ただ獲物をしとめることにのみ、意識を注いでいる。

 ……それよりも、気になるのは、創世の魔術師……。

 店に来ていた藍色髪の男、直接見るのは初めてだったが、正直拍子抜けした。

 私に全く気付かないとは。

 それどころか自分と、そして横にいた平凡な女の事で手一杯の様子とは。

 おそらく、今日の出来事も止めることはできまい。


 「……バラーン」


 気を取り直し、明るい声で呼びかけると、ばたばたと忙しない足音が作業場に近づいてくる。バランは作業場の扉を開けると、モルガンに子犬のように駆け寄って来た。


 「なんですか?おばさん」

 「殿下に頼まれていた花束が出来上がったの。お城へ持って行ってくれるかしら?」

 「おつかいですね!わかりました!あの……こちらは?」


 快諾したバランは大きな花束をそっと抱えた。そこでようやく戸口に立っている男に気が付いたらしい。


 「包装材を持ってきてくれた業者さんよ。ご挨拶をして」

 「……はじめまして。バランといいます」

 「はじめまして。お手伝いかい?偉いねえ。私はカラドスという者だよ」


 先程までの狂気を隠しきり、満面の笑みでカラドスは紳士らしく振る舞った。下町にはいない雰囲気の男の登場に、子どもらしい警戒心を抱いていたバランも、正体がわかるとほっとしたようだった。


 「ごめんなさいね。私はどうしても出かけなくてはいけなくて……」

 「おまかせください!行ってきまーす!」

 「行ってらっしゃーい」


 大きな花束を抱えたバランがよろよろしながら家を出て行くのを、手を振って笑顔で見送ったモルガンは、狂気に満ちた口元を懸命に隠した。


 「待っててね……姉さん……。今、解放してあげるから」




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