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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第一部 第一章 憧れの世界へ
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page.7

       ***


 その日出かけていった海音は深夜になっても帰らなかった。


 始めはもしかしたら飲み会とかなのかもしれないと、のんびり待っていた佐和だったが、終電がなくなった所でさすがに携帯に連絡を入れた。

 しかし、返ってきたのは機械的な「お客様のおかけになった電話は現在電波の届かないところか」というメッセージ。

 ただその時点ではそわそわしつつも、自分に大丈夫だと言い聞かせていた。

 もう、海音だって大学生だし。朝帰りぐらいするのかもしれない。内緒ってことは……彼氏なのかもしれないし。

 海音に彼氏がいるという話は聞いたことがないが、ありえない話ではない。

 そもそも終電で必ず帰り、もし遅くなるとしてもこまめに連絡してきてた今までの方が大学生としては稀有だ。

 悶々と考え込んでいた佐和は不安に押しつぶされそうになり、仕方なく実家に電話をかけた。

 実家は電車で二時間の距離だ。そこまで離れているわけではない。もし、そっち方面に遊びに行っていたなら泊まっている可能性もあった。


「あ、お母さん?私だけど、ねえ、海音ってそっち行ってたりする?」


 受話器の向こうから「はあ?来てないけど」という母親の呑気な返事が返ってきた。

 そう言われると困る。これじゃ、朝帰りを佐和がちくったみたいだ。今さら気付くがもうどうしようもない。


「帰ってきてないの?」

「……う、うん。実は、連絡もなくて……大丈夫だよ……ね?忘れてるだけだよね?」

「大丈夫じゃなーい?っていうか、気まずくてあんたに言えないでしょ。共同生活の悲しい所だね」

「そ、そうかな?そうだよね、ごめん」

「あんた、ほんと心配性ね。明日あんたが仕事から帰ってきたら帰ってきてるでしょ。どうせばれるんだから、次からは言ってから行けって言っときな」

「わかった。そうする。じゃね」


 軽い母親の返事を聞けば大した事ないのだと実感できると思っていたが、なぜか佐和の心臓は早鐘を打ち続けている。

 普通に考えれば、そうなのかもしれない。私が心配性なだけなのかもしれない。

 でも……。なぜか嫌な予感がしてたまらなかった。


 そして、結局次の日になっても海音は帰って来ず、そこで初めて慌てた佐和は両親と警察に相談をした。



      ***



 連絡を受けた警察も両親も佐和の家までやって来た。警官がリビングで両親に海音の特徴や最近の様子を聞き取り調査している時、佐和の携帯が鳴った。

 液晶画面に表示された番号は海音ではない。

 けれど、そこに表示された名前に佐和は思わず、廊下に出て震える手で電話に出た。


「……もしもし」

「佐和?あのさ、この前言ってたことなんだけど」


 大好きな声。

 どんなに辛い時でも彼の声を聴けば頑張れた。

 けれど、今は佐和の不安を拭ってくれやしないことに佐和自身が一番驚いた。


「佐和?どうした?なんか様子、おかしくないか?」

「うみねが……」

「海音がどうしたって……?」


 幼馴染の彼なら海音のこともよく知っている。そのことが佐和の口を滑らした。


「うみねが行方不明なの……帰ってきてなくて……」


 彼に言って、何になるのだろう。

 いたずらに不安を煽るだけの自分が情けなくて、佐和の両目から涙が溢れ出した。


「警察来て……友達も誰も知らなくて……どうしよう……私がもっと早く気付いていれば……!!」


 あの日おかしいと思った時点で、五月蠅いと思われてもいいから警察に行って相談していれば。母親に食い下がっていれば。こんなことにはならずに済んだのかもしれない。

 ニュースで行方不明者が出た時はまるで他人事のようにそれを見ていた。行方がわからなくなって二日以上たったらそのニュースを見た感想は一つだ。

ああ、かわいそうに。もうきっと生きてないだろうな。

 なんて、そんな残酷な事を他人なら思えた自分が恨めしい。


 お願い、神様。どうか海音だけは生きて帰らせて。


 とんだエゴだと言われても構わない。それでもあれほど明るくて面白くて優しいまさに主人公としか言いようがないあの子を死ぬなんて目に合わせないで。

 次から次へと涙が止まらない。受話器の向こうで彼が戸惑っているのがわかった。


「海音が帰ってない……?そんなはずないだろ……だって」


 次の彼の一言に佐和の涙は完全に止まった。


「俺、家の前まで送っていったのに」


 何もかもが繋がって、何もかもが千切れていくような感覚に佐和の意識は遠のいた。




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