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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第二章 騎士と魔法使い
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      ***



「は?」

「だから俺がケイだ」

「はああ!!ちょっと!じゃあさっきの要求は何だったの!?」

「ただ教えてやるわけないだろう」

「自分なら自分って言えばいいじゃん!!私たちあんたを助けに来たんだよ!」

「ふん。信頼できるかわからなかったからな」

「はああ!?」

「サワ……こいつ置いていこう」

「ダメだって!マーリン!落ち着いて!!」


 今にももう一度牢の鍵を閉めてやろうとするマーリンを押さえながら佐和は男―――ケイと一緒に牢から出た。


「とにかく!私たちはあなたを助けに来たの!一緒に逃げよ」

「ふん。しょうがないから連れられてやる。ほら道を切り開け」

「おい……いい加減に」

「待ってください」


 揉める二人を仲裁しようとした佐和は弱々しい声に驚いて動きを止めた。

 佐和の前の牢の女性が佐和たちをすがるように見ている。


「ここから……出してください!!お願いします!!」

「お願いします!!」

「助けて!!」

「お願い!!」


 女性の声を皮切りに地下牢にいた他の人々が口ぐちに助けを求め出す。マーリンは手に持っていた鍵を少しだけ見つめた後、女性の牢の鍵を開けた。


「ありがとうございます……!!」

「他の人たちのも開けて」

「はい……!!」


 マーリンから鍵を受け取った女性は次々と入口に向かって進みながら鍵を開けて進んで行った。全員が無事解放されるのを見届け、女装のスカートとカツラを脱ぎ捨てたマーリンも動き出した。スカートの下にはいていた七分のズボンとシャツだけになったマーリンに佐和たちも続く。


「俺たちも行こう」


 牢の入口に戻るとごろつきが山になって倒れていた。

 たぶんマーリンにやられたんだ。すごい……。

 その男達の山の脇をすり抜け、階段を駆け上がり、さっき来た道を引き返す。

 薄暗い石畳の通路をぐんぐんと進んでいた三人の進路は行き止まりだった。


「なんで!?来た時は一本道だったのに!」

「おかしい。おい、俺たちより先に逃げた奴らがいない……どういうことだ?」


 ここに来るまで確かに横道はあったが出口まではこの一本道だったはずだ。それなのに佐和達より先に逃げ出した人達が一様に雲隠れしている。

 慌てる佐和たちの後ろで黙り込んでいたマーリンは目の前の行き止まりを二度、三度軽く叩いた。


「……別の道を探そう」

「くそ」


 しぶしぶ引き返すケイの背後で、佐和はケイには聞こえないようにマーリンにそっと耳打ちをした。


「もしかして……魔法?」

「……ああ、この砦も結界に守られてた。おそらく敵の中に魔術師がいる」


 佐和とマーリンの二人きりならマーリンの魔法で脱出すればいい。けれど、ケイにマーリンが魔法使いであることを知られるわけにはいかない。

 ここから脱出したとしてもケイの発言でマーリンが処刑されてしまうかもしれない。運よく強制収容所に戻れるかはわからないし、もし収容所行だったとしても今度また脱走できるかはわからない。


「どうしよう……」

「これほど大きな建物全体に魔術を完璧にかけるのは無理だ。別の出口があるはず。探すしかない」

「カイに合図は送れる?」

「……屋外に出れば。ただ、カイには砦自体見えてないだろうから……援護は厳しいと思う」

「そういえばよくここがわかったね?」


 ああでもない。こうでもないとぶつぶつ言いながら道を見分するケイは佐和たちの内緒話にはまだ気付いていないようだった。


「カイが結界に入る所まではサワを尾行してた。ただ急に姿が見えなくなって、それで俺を探しに来たんだ。場所を聞いた俺はカイに見つからないように魔法を使って結界に侵入した」

「じゃあ、カイはマーリンがここにいることも?」

「知らない」

「おい、こっちだ!行くぞ」


 なぜか仕切っているケイに佐和とマーリンは話を中断してついていった。


「なんでわかるの?」

「こういった砦の創り上、考えられる出口は決まっているだろ」

「へえー」


 意外な知識披露に佐和は単純に感心した。

 どうやらただ偉そうなだけの男ではないらしい。


「おい!!てめえら!なんで逃げ出してる!」

「やば!!」


 通路の向こう側からちょうど武装した男が出てくるところだった。佐和たちを見つけた男は腰の剣を抜き、近寄ってくる。


「下がってろ」


 偉そうなケイの指示に思わず佐和は言われたとおり下がった。

 そもそも剣を持った大の男に自分が太刀打ちできるわけがない。

 ケイは男の初撃を狭い通路で的確に避け、驚いた男が剣を振りあげようとする前に男の顔に拳を入れた。ケイの拳をまともにくらった男が仰向きに倒れる。


「……す、すごい!強い!」

「まあな。こんなの俺の敵じゃない」


 ふんと得意げにえばったケイは、男が落とした剣を拾うと二度三度振った。あからさまに扱い慣れている様子に思わず感嘆する。


「剣も使えるの?」

「当たり前だろう」

「すっごい……!」


 これぞファンタジーの王道……!!

 運動音痴の自分とは縁遠いケイの身のこなしに感動した佐和に、ケイもまんざらでもなさそうにもう一度剣をかざした。


「ま、騎士だからな」

「おお……!!」

「おい、早くしないと他の敵が来る」

「なんだ、嫉妬か?」

「なんだと?」

「まあまあ。ほら早くしないとなんでしょ」


 また掴み合いになりそうになった二人の間に割って入ってなんとかなだめる。お互い睨み合っていたが、同時に鼻を鳴らして歩き出した。


「おい!どけ。俺が先を歩く」

「五月蠅い」

「なんだと!?」


 こういうのをケンカするほど仲がいいというのか。


「おい、そういや、さっきまでの女装はどうした?やめたのか?似合ってたのにな」

「燃やす」


 それとも水と油?

 言い合いながら、ずかずか進んで行く二人を、佐和は駆け足で追いかけた。




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