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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第二章 足がかりの騎士
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page.49

      ***



 最悪だ……。

 まさか上物すぎてマーリンと引き離されるなど想定外だった。

 揺れる馬車の中で佐和はうつむいたまま、ごちゃごちゃになった思考を落ち着かせようと努力した。

 最悪、マーリンなら魔法で男を気絶でもなんでもさせられる。大丈夫だろう。問題は自分だ。

 カイに救出を依頼する合図のための小さな花火はマーリンが持っている。佐和にカイに合図を出すすべはない。そもそもカイは一人だけ連れ出された佐和と出てこないマーリンの事情はわからないだろう。そうなると佐和を尾行してくれているかもわからない。

 孤立無援。四面楚歌。

 そんな四字熟語が頭の中で大きくなっていく。

 どうしよう……どうしよう……!

 とにかく大人しくするしかない。穏便に、無難に。とにかくカイが尾行してくれていることを信じて――――乗り切るしかない。

 お尻から伝わる振動が規則的なものからでこぼことした揺れに変わったのを感じた佐和は町の外に出たのだと気付いた。

 アジトは郊外にあるんだ……。

 しばらくは土に車輪が跳ねる音とごろつきの乗っている馬の鼻息だけが聞こえていたが、10分もしないうちに馬車は止まった。


「おい、降りろ」


 扉を開けた男の背後から月明かりが馬車の中に挿しこんでくる。のろのろと馬車から降りた佐和は周りを急いで見渡した。

 満月のおかげであたりは明るいが、周囲は木に囲まれていて王都の姿は影も形も見えない。ごろつきに押されて佐和は馬車の前の林に連れていかれた。

 建物も何もない。ただ森があるだけだ。館がない。そのことに佐和の額から冷や汗が流れた。

 こういう時小説だと、ごろつきが「味見くらい」とか言って攫った女性を襲うのが定番だよね……いや、でも私はそんなに魅力的じゃないし、でもでも、こういう奴らって女なら何でもいいのか!?

 一気に森の夜風に体が冷え切った。

 もし、そんなことになったら自分に逃れる術はない。周りにいたごろつきの何人かが佐和の周りを取り囲むとリーダーらしき男が合図を出した。


「おい、やるぞ」


 ヤルってそんな直接的な言い方!!やだ!!

 ばっと逃げ出そうとした佐和を両脇から抑えたごろつきがその場で佐和を動けないように押さえつけるとリーダーの男は林に向かって何か唱え始めた。

 何……!?

 男の声はよく聞き取れなかったが言葉にはなっていなかった。まるでそう、呪文のような。

 男の声がやんだ瞬間、目の前の空間がゆがんだ。シャボン玉のように透明な膜が佐和たちの前で歪み、月明かりを反射してゆらゆらしている。


「行くぞ」


 先頭の男がその膜に触れるとまるで景色に融けるように姿が消えた。次々と他の男たちも膜の中に入っていく。そして、二人に抱えられた佐和の順番が来た。

 ちょっと……待って……もしかして……これって……。

 襲われなかったことに安心する間もなく、佐和はおそらく魔法でつくられた結界をくぐらされた。


「おい、牢に入れとけ」


 目の前の光景が佐和には信じられなかった。

 さっきまで何もなかったはずの森に石でできた砦が現れたのだ。どこもかしこも蔦がはびこっていることから長く使われていなかったようだが、あちこちに火が灯っている。

 男たちに抱えられたまま門をくぐった佐和はその様子に驚くばかりだった。

 門の横には同じようなごろつきが警備している。砦の中に入ると石畳の薄暗い廊下が続いていた。

 何回か階段を下りた先に地下牢が見えてくる。両脇の牢の中には何人もの人が閉じ込められていた。皆一様に絶望に満ちた表情でこちらを見てきている。やっぱり女性が多い。とくに見た目がきれいな人が。ほかには屈強そうな戦士のような男も捕えられていた。

 これ全部売られた人なんだ……。


「入れ」


 短い命令に逆らわず、佐和は指定された牢に入った。

 地下牢の中でも奥の方にある場所だ。佐和が入ったことを確認した男たちは鍵をかけると来た道を戻っていく。耳を澄まして男たちが出て行った音を確認してから、改めて佐和は牢屋を観察した。

 窓はなし。牢の中には何もない。せいぜい寝るための藁と段差だけ。明かりは入口付近にしかないらしく、ここら辺は薄暗い。

 弱った……。

 本当ならマーリンがここのカギを魔法で壊してケイを探す予定だった。それなのにマーリンとは別れてしまった。

 佐和は後ろ手に縛られた縄をぐりぐりと手首を回して解いた。

 あらかじめ特別な結び方で解けるようにカイがしてくれていたのだ。手首をさすりながら必死に佐和は考えをめぐらした。

 もしも、さっきのあのシャボン玉みたいな膜が魔法だったとしたら、この砦が見つからないのも納得できる。だとしたらカイはあの膜を越えられないかもしれない。そうすると佐和を助けに来れる人間がいないことになる。

 マーリンならあの程度の結界破壊できるだろうが、まずここまで来られるかわからない。でも、ぐずぐずしていれば佐和はどこかに売り飛ばされてしまう。

 そうなったらもっとどうにもできなくなる……。

 とにかく今自分にできることは―――ケイを探して、いつでも動けるような状態にしておくことだ。合流さえしておけばもし助けが来た時にもすぐに動ける。


「おい、そこの女」

「……よし……そうだ……そうしよう……」

「おい」

「とにかく今できることをするんだ……」

「おい」

「頑張れ……自分」

「おい!!」

「……私?」


 話しかけられているのが自分だとは思わずシカトしていた声に佐和は隣の牢に目を凝らした。

 隣り合った牢は壁ではなく、鉄格子になっている。闇の中からゆっくりと声の主が現れた。


「お前以外に誰がいる。馬鹿か?」


 声の主は牢に入れられているとは思えないほど高圧的な態度で佐和を見下ろすと鼻で笑った。

 上等なシャツにズボン。明るい金髪がわずかな松明の明かりでもきらめいている。闇の中で見る偉そうな目はおそらく明るいところではアイスブルーの綺麗な色をしているのだとわかるぐらい澄んでいた。

 ただ澄んでいるのは色だけで、どうにもクラスの中に一人はいる偉そうな奴というかいけ好かないやつと同じ目をしている。


「何でしょうか?」


 いきなり馬鹿呼ばわりされ正直腹が立ったが、これぐらいで佐和は怒鳴ったりしない。

 努めて冷静に返した佐和の反応が気に食わなかったのか男は腕を組むと鼻を鳴らして佐和を見下した。


「なんでお前がこんな所にいる?ここは奴隷が収容されている中でもランクの高い牢だぞ。貴族か?」

「違いますけど……」

「ならなぜだ?お前を上物扱いすることに奴らになんのメリットがある?俺が見る限り外見上にそういった特徴は見受けられない。そうなれば地位的なものだろう?どこの人間だ?」

「はあ!?」


 さすがに男のこの物言いに佐和も遠慮なく声を出した。

 いきなり会ってこんな失礼な事を言う人間がいるのか。


「……私は異国の出身なんです。だからだと思いますけど?」


 ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。なんとかむかつきを抑えて返した佐和の言葉に男は信じられない返事をした。


「別に美人でもないのにな。嗜好品扱いということか」

「はあ!?」


 この男何を言いだすんだ!!

 別に美人じゃないことぐらい佐和自身が一番よくわかっている。

 けど、それってわざわざ攫われてきた人間に言うこと!?

 同じ囚われの身とは思えないほど男は偉そうに振る舞い、佐和を値踏みするような目で頭からつま先まで見た。


「ならもういい」

「……はあ!?」


 これだけ意味不明に絡んできて、聞きたいことだけ聞いたらはい、さようなら。ってどういうことだ!


「すみませんが、私も聞いてもいいですか?」

「断る。なぜ俺がお前のような奴の疑問に答えなきゃならない」


 苛立ちを隠し、引きつった笑顔で穏やかに尋ねた佐和の顔をちら見した男はふんぞり返った態度で胡坐をかいた。


「……お互い、捕まってる身ですし、情報を共有すれば何か糸口が見つかるかもしれないじゃないですか」

「ふん、お前みたいに貧相そうな奴からそんな画期的なアイデアが出てくるとは思えない」

「そりゃ、お金はないですけど……頭の回転とは別問題じゃ」

「金でも知恵でもない」


 胡坐をかいていた男は佐和に鉄格子越しに向き合うと佐和の胸元を見てからはっと嘲笑った。


「そんな貧相な体じゃ、奴らから何か聞き出すのに役立つとも思えないからな」


 今、この男はなんと言った……?

 あまりにも衝撃的なむかつく発言に佐和の思考が一瞬停止した。

 それからじわじわと胃が沸騰するように熱くたぎっていく。


「な……なんであんたにそんな事……」


 しかも、私が一番気にしている事を……!!こんなあけすけに!!

 わなわなと怒りに震える佐和を意にも介せず、男は牢の正面に向かって座りなおし、佐和をシカトし始めた。


「使えない女に用はない」


 ぷちんと頭の中ではじける音がした。

 ああ、日本にいたころはこんなに怒ることなんてめったになかったのにな。と頭の冷静な部分が突っ込みをいれているのがおかしくて佐和はにっこり笑うと男の牢の鉄格子に手を差し入れ、ぎりぎり届くところにあった男の頭を思い切り―――ぶん殴った。


「な!!何をする!俺を誰だか知っての狼藉か!?」

「ええ、知ってますとも。初対面の女性に失礼極まりない言葉を吐く紳士ですよね?」


 佐和の冷笑に男が言葉を失ったのを佐和は見逃さなかった。その一瞬の隙をついてさらに周りの空気を凍らせるほど冷たいオーラと言葉を放つ。


「大変失礼ですが、見た所あなたも捕まっているようですが、その点に間違いはありませんか?そうだとしたら、私たちは同じ境遇ですね。ここで1人でも多くの味方を作り、いざというときに備えようとする私の行為は合理的だと考えていたのですが、思い違いですか?それよりもあなたに良いアイデアがあるといならぜひ聞かせていただきたいです。お聞きした限りでは女性に色仕掛けを命じるぐらいしか策がないようですけれど、それ以外にも何か秘策がおありですか?私の体つきが貧相でなく、誰もが振り返る美人であればその策は成功しますかね?でもそうだとしても私の機嫌を損ねていたら何も意味をなさないですよね?そういう点であなたは私の機嫌を取るべきだったんではないですか?それとも美人だったらおべっか使いましたかね?ぜひ今後の人生の参考に教えてもらえれば幸いですー」

 見張りにばれないように抑えた声は逆に感情が入っていないように冷たさを増し、息をつく暇もなく滔々と聞かされる佐和の説教の迫力に気圧された男が後ずさろうとしたのを佐和は見逃さず男のジャケットを掴んだ。

「何をおびえていらっしゃるんですか?たかが貧相な小娘一人ですよ?色仕掛けもしかけられないような。さきほど『お前のような奴』と私を下とみる発言がありましたよね?ああ、怒ってないですよ?もしもあなたが私よりも立場が上の人間ならリーダーとして導いてほしくてすがりついているだけです」

「脅しているだろうが!!」


 佐和にジャケットを掴まれた男が佐和から逃れようとするが、相手は佐和と違って縛られているせいかうまく逃げられないようだ。


「ていうか!なんでお前縛られてないんだ!?」

「あれ?使えない女に御用はないはずでしたが、私の聞き間違いですかね?今、私に質問された気がしたんですけどー?」

「もういい!!わかった!!わかったからやめろ!!」

「何を騒いでる!!」


 騒ぎを聞きつけたのか入口から何人かどたどたと男たちが駆け寄ってくる音が聞こえてきて、佐和は慌てて男から手を離して自分の牢の中央に戻った。

 忘れずに解いた縄を取って結ばれているように偽装する。


「お前らか!!」


 ごろつきは佐和と男を交互に見比べた後、男の牢の鍵を開けると三人がかりで牢に入り、残りの一人が牢の鍵を締め直した。


「おい、静かにしろ。さもないと痛い目に遭うぞ」


 ごろつきのうち筋肉が一番盛り上がった一人が指をバキバキと鳴らし、男の胸倉を掴み上げた。そのいかつい目で男の顔に至近距離でガンを飛ばしている。


「てめえは奴隷じゃなく身代金目当てだからな。多少傷つけても価値は下がらねえな!!」


 そう言ったごろつきの脅しを涼しい顔で聞いていた男は、佐和に対していた時と変わらない不遜な態度でごろつきを睨んだ。


「おい、なんか言えや!!俺の筋力に物も言えねえか!?」


 周りのごろつきが合わせて笑うと掴まれていた男も笑った。


「ああ?!何笑ってやがる!!」

「いや、貴様の言う通りだと思ってな……頭の中まで筋肉とはどう鍛えればそうなれるのか不思議で可笑しくてな」

「んだと!!」


 ごろつきは男の胸倉を掴んだまま、腹に蹴りを入れた。蹴られた男がむせかえるのを見てごろつき達は凶悪に表情を歪め三人で取り囲み、男に暴行を加えだした。


「おい!!何とか言ってみろ!!こらあ!!」

「てめえ!生かされてるってこと忘れてんじゃねえぞ!!」


 囲んでいた三人の内、佐和の牢屋側に背を向けていた1人が腰にあった大剣を抜くと牢の外にいた男が「おい」と制止した。


「殺したら怒られるぞ!」

「うるせえ!この野郎ぶっ殺してやる!!」


 怒りに完全に我を忘れている様子の男が剣を振りかざした瞬間佐和は思わず、思いっきり息を吸って叫んだ。


「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 突然の大声に剣を振りかざしていた男も、周りで暴行を加えていた男たちも佐和を振り返った。


 ……やばい。

 何にも考えてなかった。

 ただ佐和と会話したせいで男を死なせるなんて嫌だったから助けたかっただけで、この後のプランは何にもない。

 沈黙が流れたのは一瞬だった。

 けれど、ごろつきの頭を冷やすことには成功したらしい。剣を腰に戻すのを見た佐和は安堵してそれを見送ろうとした。


「おい。隣の牢を開けろ」


 剣を握っていた男の命令に外に待機していた別の男が佐和の牢のカギを開けた。暴行を加えていたメンツが続々と佐和の牢に移ってくる。

 嘘でしょ……?

 怒りを鎮めることに成功したんじゃない。

 怒りの矛先を自分に向けてしまったのだとそこで佐和は気が付いた。

 じりじりと後ずさるがすぐに背中が壁にくっついた。見る見るうちに男たちは佐和との距離を詰めてくる。


「おい、こいつをどうする気だ?」

「決まってるだろ」


 さっきまで放っていた殺気とは違う。男たちは互いに顔を見合わせると下卑た笑みを浮かべた。

 すぐに佐和にも男たちが何を考えているかわかった。

 嘘でしょ……?


「いや……やだ!!」


 壁際から隣の牢の鉄格子へ駆け寄った佐和はその鉄格子をガンガンと引っ張った。どれだけ引っ張ってももちろんびくともしないけれど、逃げ道もない。


「安心しろよ、良くしてやるよ」

「やだ!!やめて!!」


 肩を掴まれ振り返らせられた佐和を無理矢理抱き寄せようと男が佐和に覆いかぶさってくる。


「いやあ!!」


 そして、そのまま―――佐和の体から男の体が滑り落ちた。


「……え?」


 足元に男が気絶して倒れている。呆気にとられたのは佐和だけではない。残ったごろつき二人も唖然と佐和を――――――正確に言うと佐和の体の横から伸びた足を見ていた。


「お前らのも使い物にならないようにしてやろうか?」


 耳元で挑発的に笑ったのは隣の牢の男だった。

 ぜいぜいと荒く息をしながら佐和の背後に立った男は牢屋の隙間から佐和に襲いかかった男に蹴りを入れたのだろう。たぶん、一番蹴ってはいけない場所を。


「てめえ!!」

「おい何してる!!」


 唖然としていた残りのごろつきがいきり立つのと荒々しくドアが開けられたのは同時だった。

 ずかずかと大股で牢に近寄ってきた別の男が牢の中にいる三人を見た途端、ぶちぎれた。


「そいつらに手を出すなと言っただろうが!!このアホども!!おい!そいつ回収して来い!!」


 おそらく牢の中の三人よりも偉いのだろう男の命令にしぶしぶと言った体で残った二人が倒れた男を引きずって出て行き、足音が遠ざかって行く。

 足音が遠のき、扉が閉められる音がすると辺りに静寂が戻ってきた。


「……はぁ……怖かったよぉ……」


 固まっていた身体から力が抜けてその場にへたり込んだ佐和の目から涙がぽろぽろこぼれた。

 本当にもう駄目かと思った。

 男に掴まれた肩は虫が這いつくばったかのように気持ち悪くて。言葉にならない恐怖で体がすくんだ。


「はっ……さっき俺に突っかかってきた女とは思えないな」


 すぐ側で男が笑った。

 言っていることは強気だが、弱々しい声に我を取り戻した佐和は急いで男の様子を見た。


「ごめんなさい!!私のせいで!!怪我……」

「お前は見張りにばれないように小声だったろうが。運が悪かっただけだ」


 冷静に考えれば男が騒いだせいなのだが、混乱していた佐和はそこまで考えが及ばずただひたすら謝り続けた。


「でも私が話しかけなきゃ……本当にごめんなさい。ごめんなさい……」

「五月蠅い。もういい……それより、なんで俺を助けた?」

「え?」


 座り込んだ佐和の視線に合わせて座った男の顔は思ったよりも近い。

 初めてまじまじと見た男の顔は精悍で、マーリンとはまた種類の違う男らしいかっこいい顔だった。 

 めったにない異性との至近距離に思わず視線をそらしてしまう。


「え……だって……私のせいだし」

「……助けなくてもお前にデメリットは無かったはず。逆に救う方がハイリスクだ。なぜだ?」


 そんなことを言われたって。あの時は無我夢中でリスクだの、メリットだの考える暇はなかった。というかあんな状況でそんな冷静な判断できるはずがない。


「メリットとか人が死にかける時に関係ある……?」

「あるな。少なくとも俺はそう考える」

「私はそこまで頭回んないよ」


 危機的状況で冷静な判断をくだせるほど自分は頭が良くないし、場慣れしているわけでもない。

 基本的に小心者なんだから冒険にはほとほと向かない性格だ。


「は、お前頭悪いんだな」


 男たちに暴行を受ける前となんら変わらない皮肉だが、不思議と佐和はその言葉に苛立たなかった。


「じゃあ、なんで私を助けてくれたの?」


 佐和の疑問に男は顔をそらすと佐和に背を向けて床に寝転がった。


「デメリットしかなかったよね?」

「……五月蠅い」


 賢しい女は嫌いだ。と男の呟きが静かな牢に響いた。




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