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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第二章 足がかりの騎士
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page.48

      ***



 結果、奴隷商人との受け渡しはうまく行った。

 昨日とは違うやつらにうまくカイは話をつけたらしい。ごろつきが佐和とマーリンを乱暴に連れ去っていくのをお金を受け取ったカイはいやらしい笑い方をしたまま見送っていた。

 男たちに引っ張られて夜の街を歩いていく。どこも静かでとても日本とは似ても似つかない。

 こうしてみると日本って本当に治安がいいんだな……。もっと明るいし。

 道を照らすのはところどころで燃えている松明と男たちが持つランプだけだ。進む先もよく見えない恐怖に足がすくみそうになる。

 本当にこんな作戦でうまく行くんだろうか。そもそも本当にケイはあのケイなのだろうか。無事に帰れるだろうか。ああ、でも帰るとこなんて私には無いんだった。

 ぐるぐると不毛なことを考えてるうちに町はずれの小屋にたどり着いた。倉庫のようなそこに男たちに小突かれて無理矢理入れられる。


「ゲイア!おい納品だ!!」


 佐和たちを連れてきたうちの先頭を歩いていた男が小屋の中に向かって叫ぶと、小屋の中に唯一置かれている机とイスに腰掛けていた人物が眉をひそめた。


「うるさいですよ。もう少し静かにお願いします」


 闇に融けるような紺の長いローブを着た男は40歳後半ぐらいだろうか。こんなごろつきの元締めの組織の一員と聞いて、佐和が想像していたガタイのいい坊主や髭の男ではなく、神経質そうな、少ない髪を撫でつけ偉そうな雰囲気を漂わせた男だった。


「この二人ですか」

「ああ、見ろよこの女、異国人だぜ」


 突き飛ばされ、ゲイアと呼ばれた男の前に佐和は進んだ。

 ごろつきたちは皆いやらしい目つきで後ろから佐和を見つめている。

 とにかくこういう場面で取り乱したり、過剰に反応すれば相手を刺激するだけだ。

 佐和は自分の両手首に巻かれた縄の感触だけに意識を集中させた。


「ほう?珍しい。どこの国だ?」

「……」

「答えろ」


 手短い命令に冗談では済まない凄みを感じて佐和はおそるおそる口を開いた。

 おそらく気は長くなく、怒らせるとまずいタイプだとその言葉だけでわかる。


「……東の」

「おい、東だって!?東っていや未介入の地じゃねえか!」


 カーマ―ゼンでも聞いた。カーマーゼンよりも東の地は聖なる山に阻まれその向こうを知るものはいない。

 そうなれば男たちが佐和の言葉の審議を確かめることはできないだろう。事前にカイにも確認し、聞かれたらそう答えるように言われていた。


「ほう?東の……そっちは?」


 ゲイアは男たちに捕まえられているマーリンにも目をやるとマーリンの(あご)を捕え、様々な角度から眺めた。


「こいつは普通の村娘みてえだが、べっぴんだぜ」

「それもとびきりな……」


 男たちの言葉にマーリンは悪寒が走ったのか身震いしている。

 緊張する場面なのに、男が男に見惚れていると思うと何だかどちらも哀れに見えてきた。


「いいだろう」


 ひとしきりマーリンを見つめたゲイアは何か思案するように考え込んでいたが、しばらくすると薄ら笑いを浮かべた。


「おい。Aの館に連れてけ」

「へい」


 よし、まず第一段階はクリアだ。カイの話では奴隷はA、B、Cにランク分けされている。Aということは一番上のランクだ。

 動き出した男たちに大人しく付いて行こうとした佐和とマーリンに向かってゲイアは何か思い出したようにつかつかと歩み寄ってきた。


「待て。お前はこっちだ」

「……へ?」


 信じられないゲイアの発言に思わず佐和の口から間抜けな声が漏れた。

 ゲイアはなんとマーリンを後ろから抱きしめ、あろうことか―――髪に口づけた。


「お前は美しい。私が特別に……可愛がってやろう」


 はああああああああああ!!!!!!????????

 叫ばなかったことを誰か褒めてほしい。

 こいつは一体何を言いだすんだと佐和もマーリンの顔も訴えている。それなのに男はマーリンの頬をやらしい手つきで撫でまわすと満足げに微笑んだ。


「名誉だろう?良い値を払ってやる……ふふ」


 あまりにも衝撃だったのかマーリンは声も出せず、口を開けたまま固まっている。

 いやいやいや、あんたが抱いてんの、男だから!!

 心の中で全力で突っ込むがそんなことを言えば作戦は台無しだ。真実を明かすわけにもいかず、かといって普通に売ってくれなどと言い出すのもおかしい。

 というかそもそも同じ場所に運ばれないなら作戦がぐちゃぐちゃだ。

 嘘でしょ!!??

 お互い叫びだしそうな顔で固まったまま、マーリンと佐和は引き離された。




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