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「じゃ、ま。腹も膨れた所で話してもいい?」
「……事情を話してもらおうか」
食べ終わった皿を店員が運んで行ったのを確認した男が話し始めたのをマーリンも真剣な表情で見た。
「まず、この町に今、奴隷商人が蔓延っていることは知ってる?」
「聞いた」
「昨日の奴らもそうだ」
「あなたは違うんですか?」
佐和を攫ったということは奴隷として売り飛ばそうとしたということだ。それならこの男も奴隷商人なはずなのに。まるで他人事のように話している。
「ああ。俺は違う。俺はとある理由で奴らに接触したいだけでね」
「……理由?」
男はあたりに隙のない目を走らせると声を少し潜めた。
「ケイが……俺の弟が奴隷商人に攫われた。俺はあいつを取り返したい。そのために協力してほしいんだ」
「協力?」
「そう。昨日のあいつらは下っ端だ。この町の奴隷商人には元締めがいて、収められた商品の質によって納め先が異なる。俺の弟はおそらく上物として扱われてる。ただ捕えられている場所がわからない。そこで上物を納めてその場所を特定しようと思って」
「……それでサワを攫った?」
「えええ!!??」
マーリンの推察に佐和は思わず叫んだ。
嘘だ!!こんな美人でもなんでもない女がなぜ上物のクラスに入る!?
「何で!?私かわいくないのに!」
「そんなことは……ないと……思う」
「マーリン慰めなくていいよ!事実なんだから」
本当にマーリンは優しい。でも佐和の顔のレベルはどう考えてもそこらへんにごろごろいるレベルだ。
「はははー。そうだねー。サワちゃんの顔は普通……すみません」
軽口を叩こうとした男はうんうんと男の言葉に頷く佐和の次に殺気を放つマーリンを見て急いで謝った。
「で、何で私を攫ったんですか?」
「君、異国の出身でしょ?」
男の指摘に佐和はどきっとした。
「なんでそう思うんですか?」
「顔つきがどう見ても違うからねー。すぐわかったよ。君みたいに若くて異国の娘っていうのはそういう奴らにとっては上物らしい」
確かに、顔のことは佐和もこちらに来て思ったことだった。マーリンも目の前の男も日本人とは全く顔つきが違う。
「それで、私……」
「そう。だから、君たちに協力してもらいたいんだ。やつらのアジトを突き止める計画に。もちろん、無料とは言わない。お礼は弾むよ」
「……信用しろと?」
「……ここからはオフレコだけど、俺は貴族だ。金なら良い額で揃えよう」
男は片目をつぶると懐から袋を取り出し机の上に置いた。その袋を覗き込むと金貨がたっぷり入っている。
「……マーリン。正直、これだけあったらどれくらいもつ?」
「……かなり。だけど、俺はお前が許せない。お金で何とかできると思ってるのか?」
正直資金に関しては喉から手が出るほど欲しい。
謁見が中止された今、どれだけ王都に滞在することになるかわからない。そうなると経費不足は佐和たちにとってかなり深刻な問題だ。
けれど、マーリンの危惧する通り、いきなり振ってわいた美味しい話に飛びつくのは危険すぎる。
「思わない。でも君たちはこの話に乗ると思うよ」
「……サワを一度危険な目に合わせた奴と手を組むわけないだろ」
マーリンの苛立った態度を気にもせず男は満足げに笑うと、席を立った。
「俺の名前はカイ・エクター。もし乗り気になったら三番街の宿屋に来てくれ」