表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第一部 第一章 憧れの世界へ
4/394

page.4

       ***



「で、頼んどいた仕事は終わった?」


 ランチタイムの友人との食事から戻ってきて、午後の仕事を始めた途端、佐和は憂鬱な気持ちになった。

 自分の席でパソコンに向かっていた佐和は、それが自分にかけられた言葉だとワンテンポ遅れて気付き、慌てて返事をした。


「はい、いや、まだです」


 佐和のオフィスの机の島でお誕生日席に座っている課長があからさまに苛立つ。

 マズイとは思うものの、こればっかりはどうしようもない。

 そもそも、さっき頼まれたばっかじゃん!!

 課長に資料の作成を頼まれたのはわずか五分前。

 そんな短時間でできる書類ではないし、そもそも今佐和が作っているのはその資料より緊急性の高い書類だ。

 課長の苛立ちを感じてか、周りの先輩社員は素知らぬ振りを通している。

 助け合いの精神など、この会社に無いことは去年一年間で痛感していた。

 机の左側には未処理の書類の山ができていて、今日も遅くまで残ることになりそうだ。

 しかもこれらは自分の分の仕事では無いのに、だ。

 どっちにしろ、てっちゃんと食事は無理だったな……。

 ほんとは断ればいいんだろうけど、上から頼まれて断れるわけないじゃん、しかも二年目のぺーぺーが。

 第一、断ろうものなら何が待っているかは明白で、実際、オーバーワークを上司に相談した佐和の向かいの同期の席は一ヶ月前から空席のままだった。

 とにもかくにもやるしかない!!

 さっきまで失恋話をしてたなんて、なんだか笑えるぐらい遠くに感じる。

 佐和は気合いを入れ直して画面を睨みつけた。



       ***



「はぁ…疲れたなぁ……」


 駅のホームを出て駅ビルに向かう途中、周りに誰もいないのをいいことに、佐和は一人ごちた。

 口にすれば楽になるかと思ったけれど、何も変わらない。

 もう社会人二年目かぁ……。

 今年、誕生日がくれば24になる。

 学生の頃は20歳後半と聞けばもっと大人なような気がしていたけれど、なんにも変わらないのだと最近気付いた。

 考え方も性格もそりゃ、もちろん環境に合わせて変わっていくけれど、根本的な所ですごく大人になった自覚はしない。

 今日も怒鳴られちゃったし……。

 佐和の職場はかなり体育会系の会社で、未だに怒鳴るのが当たり前の風習が色濃く残っている。

 今日も結局、課長に頼まれていた全ての仕事を終えることができず、散々嫌味を言われた帰り道だった。

 そもそも私は他の仕事抱えてたのに、なんで頼むわけ。しかも、それ言ったら生意気って怒られるんだよ。挙げ句の果てに自分でやるからいいって、じゃあ最初からやれよ……!

 肩に食い込むカバンを抱え直す。カバンには大量の書類が詰まっていて肩と腰がもう悲鳴を上げている。

 他にも頼まれた仕事があるが、誰もやり方を教えてくれず、自力で方法を書類の山から見つけるしかなさそうだった。しかし、会社にいる間にそんな時間は取れない。家でやるしかないのだ。

 わからないこと聞くと、自分で考えろってまた怒られるしな……わかんないから、聞いてるのに……。

 俗に言う「言わないと何もわからないわけ?」と言ってくるような人しか佐和の職場にはいない。「自分で考えたらわかるだろ!」と怒鳴られておしまいだ。

 それでお決まりの「今時の若者は……」でしょ……。よく言うよ……新人研修とかもほとんどしないでいきなり現場。しかも初めての作業にたいした説明もなし。これでどうやって自力で考えるだけで仕事進められんの?そんなの少なくとも凡人には無理。

 佐和は仄かに灯る街灯をぼんやり見上げた。

 夕暮れ時に帰路につけたことは入社してから一回もない。完全なブラック企業だ。

 なんでこんなはめになっだんだろうと考えて、すぐに結論が出た。


 「就活うまくいかなかったもんなぁ……」


 佐和はそこそこ有名な私立大学に通い、卒業した。在学中は成績も良かったし、サークルでも副代表だった。それでも、希望する職には就けなかった。

 唯一内定の出た今の会社に、就職浪人は出来ないと思って入社を決めたけれど、まさか自分が家でいわゆるサービス残業をする日々を送ることになるとは思わなかった。

 入る前にわかってればなぁ……でも、いくら調べても実体ってわからなかったし……ここで、一生は働けないよな……。

 そのことを考えると頭が重い。

 佐和が勤め始めてから先輩も同期も次々と辞めて行った。中には佐和の同期のようにオーバーワークを素直に上司に相談したら無理矢理辞めさせられることになった者もいる。

 働くってなんでこんなに辛いんだろう……。

 生きていくためにお金を稼ぐ手段としてどうしようもないことだとはわかっているけれど、愚痴ばかりが零れる。

 でも転職する勇気も湧かないしなぁー。


 そんな事を考えながら、佐和は駅ビルの中に入って行った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ