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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十三章 エイボンの目的
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      ***



 おかしいな……。

 先程から召喚魔術は成功している。『失敗作』とエイボンが呼んでいる実験の成れの果ての人間だったもののストックはまだ充分にある。戦力としてはエイボンの方が圧倒的に有利だった。

 まさかトリストラムを再起不能にまで追い込むなんてな。そこはさすがあのアンブロシウス王の息子ってところか。

 だが、それもまたエイボンにとっては想定内の出来事だった。

 俺に与えられた使命はできるだけ時間を稼ぐ事、それに加えて可能な限り多くの『円卓の騎士』を殺す事。

 最悪アーサー王と創世の魔術師は通しても良いと言われている。だから相手側が誰か味方の騎士を犠牲にして先に進むなら見逃そうとすら考えていたのだが……。

 考えてた以上にどうやら馬鹿だったみたいだな……。

 今もなお永遠に出現し続けるかつて自分が愛した国の民だったもの達を切り殺す騎士と王、そして王に仕える魔術師の顔に汗が流れている。

 無駄だってのがわかんないのかね……。

 まだまだエイボンにはストックがあるのだ。それこそ『無尽蔵』と比喩しても良いほどに。

 まぁこの調子なら『奥の手』を出す必要もなさそうだ。いずれ人間である向こうは体力が切れる。その隙をエイボン自身が魔術で各個撃破すれば確実に仕留められるだろう。なんなら創世の魔術師の半殺しとアーサー王の抹殺すらここで終えられそうだ。

 ……一つ、懸念事項があるとするなら……。

 エイボンはホールの反対側、最も遠い位置で女騎士と王に挟まれる形で守られて狼狽えている女を盗み見た。

 『湖の乙女』。

 会うのは二度目だが、大した力も持っていない上にそれどころか魔術すら使えないようだ。

 にも関わらず、彼女の周囲にエイボンは失敗作たちを出現させられずにいた。

 アーサー王を最初に取れば、他の騎士は崩れる。

 そう考えアーサー王の死角から失敗作をけしかけようとしているのだが、なんせあの三人はかなり至近距離で固まって防御に徹しているため不意を突こうにも難しい。もっと言えば王の最も死角になっている部分に立っているのはあの『湖の乙女』なのだ。そこに失敗作を出現させ後ろから王を襲えばすぐにでも首は取れる計算なのだが……。


 「召喚魔術がうまく発動しない?」


 剣戟の激しい音にまぎれるようにエイボンは微かな声で思考を確かめた。

 そう、先程からエイボンは何度も何度もあの女の位置に失敗作を呼び出そうと試みている。それなのに……。


 「縁がうまく誘導できない。どういうことだ?さすが『湖の乙女』とでも言うべきなのか?」


 彼女の周囲の縁は非常に薄く、まるで靄がかかったように不鮮明で、召喚のためのパスを作成する事ができない。どうしても自分の思い描いた場所には失敗作の出現を誘導できない。

 しかし、そこから少しでも離れた場所に出現させた失敗作は王自身か護衛の女騎士があっという間に片付けてしまう。


 「まどろっこしいな……」


 だが、それも時間の問題だ。すでにアーサー王の騎士達には疲労の色が見え始めていた。

 実験と試行錯誤を誰よりも繰り返してきたエイボンに取って、彼らの体力が尽きるのを待つことなど、苦痛の一つとしても感じられなかった。




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