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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十一章 過ちの魔術師とウーサー王
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       ***



 イグレーヌから事情を聞いたらしくゴルロイス公はすぐに会場を後にし、自身のティンタジェルの城に戻っていた。

 断崖絶壁の上にそびえ立つ難攻不落の城。それがゴルロイス公の城だ。

 あの城に行くためには表の一本道を登って行くしかない。しかし正面から進軍すれば待ち構えている兵力に城壁の上から狙い打ちにされる。

 地形を味方につけたその城の強固さ故に、ウーサーはゴルロイスにのみ自治を許したといっても過言ではない。彼にクーデターでも起こされ籠城戦になった場合、こちらに勝ち目が無いからだ。


「して、どのようにするのだ?ブレイズ」


 闇夜に紛れ、僕とウーサーは二人きり、遥か遠くのティンタジェル城を見上げていた。

 ぎらぎらと欲望に突き動かされている主に、僕は静かに馬の鼻を彼に向けた。


「……その前に一つだけ。約束を守ってほしい。ウーサー」


 僕の唐突な言葉に彼は眉を潜めている。


「……押し付けられたと言っていたが、もう……既に君は王だ。その事実は覆らない。君が無理矢理イグレーヌ様をめとれば余計な反感と争いの種を生む」


 これから取り付ける約束は最大限の僕の譲歩だった。

 決して譲れぬ最後のデッドライン。


「イグレーヌ様を君のものにできるのは……一夜(ひとよ)だけだ。僕の魔術で君をゴルロイス公の姿に変える。その姿で君はイグレーヌ様と一晩だけ、ともに過ごせばいい。本物のゴルロイス公には先の会場での奥方への謝罪と正式な和解の申し入れとして、話し合いの場を設けてそこに呼び出す。そちらには君の姿に化けた僕が赴く。一晩、僕が彼を引き留める。君の夢は……その(かん)だけだ」

「それでも構わぬ!ブレイズ!感謝する」


 話が違うではないかと怒り出すかと思ったが、ウーサーは歓喜の表情で僕の両手を握りしめ、自分の額に当てた。

 それだけでどれほど彼が彼女に心奪われてしまったのか痛感する。

 …………胸が、痛い。


「一応、用心には用心を重ねて、君は秘密の地下通路を行くんだ。崖の海辺側に僕が城内部までの通路を作った。行きも帰りもそこを通ってくれ」


 ウーサーが頷いたのを確認してから、僕は杖を取り出した。


「それじゃあ、始めよう」


 僕は、彼の姿を変える呪文を唱えた。




       ***




「…………」


 初めて明かされるウーサーの始まりの過ち。その光景を見ても佐和の口からは何も言葉にならなかった。

 誰が悪いかと聞かれれば……答えられない。

 ウーサーに身勝手な理想や責務を押し付けた民や騎士も。

 初めは己の意志で王になろうとしたのに志半ばで折れ、周囲に責任転嫁したウーサーも。

 そして、愛しい相手を救うためにイグレーヌを犠牲にした彼女―――ブレイズも。

 誰も彼もが悪かったと、過去を振り返って非難するのは簡単だ。

 でも……この人達は……自分達を守るために、自分達の世界だけを守るために戦った。それを全て悪としてひとくくりに断罪することは出来ないような気がした。

 それでも……許される事ではないのもまた事実だ。


「ここから先は君たちも知っていよう。ウーサーは僕の魔術でゴルロイス公の姿となり、一晩の時をイグレーヌと共に過ごした」

「……なら、どうしてゴルロイスは死んだんだ?先生の言う通りなら……」

「……そう、僕の計画ではウーサーの願いはたった一夜の夢で終わるはずだった……。けれど、ウーサーのイグレーヌへの恋慕はそれほど生易しいものではなかった。そんな程度で満たされるものではなかったのだよ……」


 過去の映像が変わる。

 闇夜を照らす赤い光。炎があちこちで燃え広がっている。


「……ウーサーは……僕を騙した。僕がゴルロイス公に伝えた和平交渉の開始時間を僕に内緒で早め、ウーサーに盲目的だったウルフィンにゴルロイス公の暗殺を命じていた」


 闘技大会に現れたゴルロイス公のかつての騎士を佐和は思い出していた。

 彼の言っていた事は事実だったのだ。


「僕が駆けつけた時には何もかもが手遅れだった。ゴルロイス公は死に、全てがウーサーの物となった」




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