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「ふむ……これも興味深い」
アミュレットとムルジンの逢い引き出発を見送った僕は独り、書店を巡って街の滞在を堪能していた。
魔術書はドルイドの遺産として数多残されているが、既に僕は僕らが所有している分については丸暗記してしまっていたし、昨今魔術書の入手は困難を極めている。
しかし、邪の道は蛇。こういった大きな街には領主や法の及ばない地域というのが必ず存在する。そしてその中には魔術に関連したものを扱う店ももちろんある。
といってもあまりに危険だからアミュレットは連れて来られないわけだが。
ムルジンのおかげで、まあ、僕の自由行動が増えたことで、以前から目星をつけていた店に僕はようやく足を踏み入れていたところだった。
今までは妹の側を離れるわけにはいかなかったからな……。
「随分買うなー、あんた」
「ふむ。そうだろうか?一度に持ち帰る量も限度があるからな。今日の所はこれぐらいにするつもりだが、明日また来るので、そことこれとあそこと左から二番目の本とカウンターの奥の青い背表紙の物は取っといてくれ」
「無事に明日もあんたが買いに来られなかったら、売るぞー」
「それで構わないよ」
僕はとりあえず今持てる分だけの魔術書を購入し、料金を支払う。
店主の言うことはもっともだ。魔術師の命など明日は知れぬ。
「まいどあり。まあ久々の大口顧客に来られなくなったらこっちも痛手だからな。ちょっとした情報をおまけしてやる」
「情報?」
魔術書を鞄に詰め込んでいた僕に店主は声を潜めた。
「……ここら辺で魔術師を騎士が必死になって探してるらしい。ここにも来たよ。もう俺の命もおしまいかと思ったが、そいつは俺の事は見逃すから代わりに魔術師に言いふらしてほしい事があるとか言ってさ」
「恩を売るどころか強制的にしゃべらざるをえない状態じゃないか。それをサービスなどと厚かましい」
「いいから聞けって!そいつはな、ドルイドの中でも『ブレイズ』って魔術師を探してるらしい」
店主の言葉に僕の時が一瞬、止まったかと思った。
魔術師ブレイズを探す騎士……。
瞬間、あの騎士の姿が蘇る。
低い声。洗練された空気。厳しそうな眼差し。
「……おきゃくさーん?」
店主の呼びかけで僕はようやく我に返った。
「……あ、ああ。情報をどうも。僕も面倒事はごめんだ。なるべく見つからないようにするよ。君のように見逃してもらえるとは限らないしな」
僕の言葉に店主もその方がいいとうんうん頷いているが、僕の鼓動は速まっていた。
彼がここに……カメリアドに来ている……?
そう思うと、なぜか急に息苦しくなったような気がした。




