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昔から感情があまり表に出るタイプではなかった。
幼い頃そんな私を心配した両親はあの手この手で様々な習い事をさせようとしたり、色々な場所に連れて行ったりして反応を引き出そうとしたと、大きくなって笑いながら言われたことがある。
両親の不安は的中し、私はごくごく平凡な、どのクラスにも必ず一人か二人はいる物静かな人間に育った。
友人はごく僅か。
休み時間は外でドッチボールよりも読書。勉強は人より多少できるものの、天才とまではいかない。
目立ったことをするわけでもないが、別段クラスで思い切り浮いているわけでもない。
それが私の人生の立ち位置だった。
高校生になり、地元の進学校に入学した私は以前よりも気の合う友達と多く出会い、毎日笑って過ごしていた。
部活もそこそこにこなし、成績もそこそこ。心配されていた友人の数もそこそことなり、大学もそれなりに名の通った私大に合格した。
就職活動はなかなかうまく行かず、どの面接も二次や三次までは通るものの、最終面接には落ち続け、ようやく夏頃今のそこそこの規模の会社に内定をもらって、働きだして二年目だ。
小さい時から私を知っている彼には大学生になった時に「佐和は少し変わった」と言われたことがあったけれど、私の自覚は何も変わらない。
多少の辛いことと、多少の悲しいこと、多少の嬉しいことと、多少の楽しいこと。
私から見れば多少ではないけれど、きっともっと劇的な人生を歩んでいる人から見れば「多少」と呼べる程度の人生のでこぼこに翻弄されながら生きていく。
それが私の人生だと思っていたんだ。
その日までは。