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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十章 ウーサー王の死
297/398

page.296

       ***



 歴史に類を見ない王宮への暴動は唐突な終焉を迎えた。

 騎士や兵の中にはあの光の事を神の救い、奇跡だと称す者もおり、(みな)は勝利の雄たけびをあげる。


 キャメロット国王ウーサー・ペンドラゴンの危篤が知らされたのはその直後だった。



       ***



「……」


 ゴルロイス達を何とか退けた後、駆け付けたエクター卿の指示ですぐにウーサーの手当が行われた。その間、佐和やマーリン、アーサーすら別の部屋で待機しているように言われ、同じ部屋にいるものの会話はない。

 ……空気が重い。当たり前だ。

 ウーサーの命の灯火は今にも消えかかっている。

 アーサーはソファに腰かけはしたものの両手を組んで頭をもたげ俯いている。

 まるで神様に祈るような姿勢。アーサーには似合わないその姿が、この事態の深刻さを物語っている。


「……アーサー、せめて怪我の手当を」


 おそるおそる医者から渡された救急箱を持って近付いたが、アーサーはこちらをちらりとも見ようとしない。


「いらん」

「でも……アーサーも怪我……」

「いらんと言っているだろうが!!」


 振り払った腕に持っていた救急箱が当たった。五月蠅い音を立てて床に中身が散らばる。

 その音でようやくアーサーが顔をあげた。びっくりした佐和の顔を見て正気に戻ったのかもしれない。小さく「悪かった……」と呟いている。


「いえ……」


 びっくりはしたけど、こんな時荒れずにいろっていう方が無理だ。

 佐和も大人しく割れた瓶や散らかった道具を片付ける。

 焦燥と苛立ちと無力感。そういうものがごちゃごちゃに混ざり合って、訳が分からなくなっているような姿は見ているこっちまで胸が苦しい。

 マーリンはマーリンでゴルロイスに言われた言葉を気にしているのかもしれない。落ち込んでいる様子はないが、難しい顔つきで黙り込んだままだ。

 ……やっぱり私には何にもできない……。

 こんなにも二人が大変な時に、何にも……。

 その時小さく扉が叩かれた。返事を待たず、けれどゆっくりと扉を開いたのはエクター卿だ。

 アーサーや佐和達がゴルロイスと対峙していた時、彼はイグレーヌを謁見室に連れて来るようウーサーに命じられ、その通りに行動した結果、離塔で疫病にかかった兵士に襲われていたらしい。イグレーヌを一人、隠し通路から逃がして戦っていたとの事だった。

 バンシーの最期の力によって暴徒は皆本来あるべき場所へと還っていった。その後、別の通路を使ってエクター卿が駆け付けてくれなければ、佐和達だけではどうしようもできなかっただろう。


「……殿下。陛下がお呼びです」


 その言葉で察した。

 この後、事態がどうなっていくのかを。


「……わかった」


 ソファから立ち上がったアーサーに付いて行こうとしたところでエクター卿にやんわりと止められる。

 遮った手を見上げると小さく首を横に振られた。


「殿下のみで、お願いします」

「……わかりました」


 エクター卿がアーサーを連れて出て行くと余計に部屋が静まり返った気がした。

 佐和は踵を返し、マーリンの前に歩み寄った。


「……サワ……」

「マーリン……大丈夫?」


 何て無意味な質問。マーリンは「大丈夫」と返すに決まっているのだから。

 それでも聞かずにはいられなかった。

 意外にもマーリンはそこまで落ち込んでいるようではなかった。「大丈夫」と答えた声に無理矢理作った感じは受けない。


「どうせあんなの俺を動揺させるための嘘に決まってる。俺はサワの方を信じてる」

「マーリン……」


 ちくりと胸が痛んだ。

 だけどそれは決して表に出してはいけない感情。

 揺らいではいけない。

 それが佐和の罪。


「それより今は……アーサーの方が……」

「……うん」


 マーリンが何を言いたいのか佐和にもわかった。


「……本当はいけない事だと思うけど」


 左腕のブレスレットをマーリンの前に差し出す。


「私達は……見届けなくちゃならないと思う」


 覗き込んだ水晶には、ベッドに横たわるウーサーとそれに歩み寄るアーサーの姿がはっきりと映っていた。




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