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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十章 正しき運命
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page.293

       ***



「私がお前の父親だ」


 ゴルロイスの正体がわかった時よりも激しく、そして部屋は限りなく静寂に包まれた。

 マーリンも佐和も、ゴルロイスの笑顔に何も返す事ができない。

 マーリンが……ゴルロイスの……インキュバスの息子……?


「……嘘だ、嘘に決まってる!」

「何故そう言い切れる?」

「だって俺の両親は!両……親……は……」

「ほら記憶がないのだろう?」


 ゴルロイスの指摘にマーリンの顔が青くなる。

 マーリン……。

 口を挟みたい。そんな奴の言う事にいちいち取り合う必要なんてないって。

 だけど、ゴルロイスの言葉には妙な説得力と他人に口を挟ませない空気があった。


「お前は両親に魔術師だったから捨てられたと思っているようだが、それは単なる思い込みだ。別に誰から聞いたわけでもないのだろう?大方村の子供たちの悪口でも幼心に信じて無意識下にそうだと思い込んだだけだろう」

「ち……ちが……」

「違わないさ。お前は私の子だ―――マーリン。だからお前は普通の魔術師とは次元が違うんだ」

「……俺はアーサーと異父兄弟って事か……?」

「いいや、お前はイグレーヌの子ではないのでな。……まあ、そこらへんの事は気にする必要はない。大事なのはお前が生まれた理由だ」

「俺が、生まれた……理由……」

「アーサー王を導く。それが魔術師として生まれた自分の唯一の存在理由。そう考えていたんだろうな。可愛そうに。そう思わされたのだろう?後ろの湖の乙女に。だが彼女はそう言ってお前を利用していたに過ぎない。お前の生まれた理由は別にある」

「……何でそんな事が言い切れる!?俺の生まれた理由なんて!」

「決めるも何も。新しい器として私が産ませたのだから、お前の生まれた理由は明確に決まっているのさ」


 器……?

 混乱している佐和達を見たゴルロイスが楽しそうに笑う。無知な子どもに何かを教える時のような優越感に浸りながら、彼は懇切丁寧に佐和とマーリンに語り出す。


「ゴルロイス公の身体はほぼ死者であり、ただの人間。私と高い適合率で融解したとはいえ、夢魔(インキュバス)の力に身体は耐えられない。いずれこのままでは私は身体が先に朽ちてしまうだろう。そこで私が永久(とこしえ)に現世に留まるために特別な魔力を持った器を作った。それがお前だ―――マーリン」


 嘘だとは否定しきれない。

 ゴルロイスの話は筋が通っている。マーリンが他の魔術師とは一線をきしているのも、マーリンに両親がいないのも、それなら納得ができてしまう。


「故に」


 そう言って突如ゴルロイスがマーリンに向かって突っ込んできた。驚いたマーリンは対した防御もできずにまともに拳を食らう。


「マーリン!!」

「お前が、穢れた存在の器であるお前が、光の王を導くなど在り得ないのだよ」

「……うそだ……そんなのは嘘だ。だってサワは言った……俺が……アーサーを導く事で、世界は新しい時代を切り開くって。そう言ってくれたんだ……」

「大方、湖の乙女もあいつに吹き込まれたのだろうな……。あいつはお前をあちらの世界に引きずり出し、利用しようとしている。けれど、無駄だ」

「マーリン!!」


 苦しむマーリンにゴルロイスが手にした剣を上部に振り上げた。


「なんせお前は私の―――インキュバスの器として生まれた存在なのだから。そんな穢れきったお前が新しく平和な世を築くなど片腹痛い……!」

「マーリン!逃げて!お願い!避けて!」

「大人しくその身体を私に明け渡すがいい」

「マーリン!!」


 刀身が振り下ろされる。佐和は思わず目を瞑ってしまった。

 しかし、部屋にはマーリンが刺された音も、首を跳ねられた音も聞こえてこない。

 おそるおそる瞼を開くと、ゴルロイスとマーリンの間にバンシーが両手を広げて立っていた。

 ゴルロイスはバンシーの眉間すんでのところで剣を止めている。


「……ほう?これは珍しい。バンシーとは」

「……ペンドラゴン家の者に手出しはさせません」

「バンシー……」


 バンシーはマーリンの呟きにちらりとだけこちらを見て、すぐに視線をゴルロイスに戻す。

 存在感の希薄なバンシーと、肉体を持ち剣を携えるインキュバス。それは異質な光景だった。


「『こちら側』の者として、これ以上貴方の好き勝手にはさせない」


 静かだが、確かな宣言にゴルロイスは愉快そうに皮肉の笑みを浮かべている。


「……それで?たかが家つき妖精に私が止められるとでも思っているのか?思い上がりも(はなは)だしい」


 初めてゴルロイスが笑顔から表情を変えた。侮蔑を受け、誇りを汚された静かな怒りは肌を刺すように鋭い。

 怖い……この人、本当に悪魔……なんだ……。

 しかし怯む佐和達と違ってバンシーはただ静謐にそこに立っている。彼女の白いワンピースがはためく。


「いいえ。ですが……退(しりぞ)ける事だけなら」


 ゴルロイスも含めその場にいた全員がバンシーの言葉に呆気に取られた瞬間、バンシーが目映く光出す。

 眩しい……!

 直視できない。部屋中が見えなくなるほど目映い光。ただバンシーの輪郭が部屋中を包む光と境目をなくし、その瞳だけがゴルロイスがいるのであろう場所を射ぬく。


「ペンドラゴン家守護者バンシーの(いのち)をもって(めい)ず!『あちら側』に属する悪しき魂と陰よ、ペンドラゴンの城に立ち入る事二度とある事無かれ……!!」


 バンシーの高らかな宣言と共に部屋中の光が弾ける。


「うっ……!」


 あまりの閃光に佐和は目を瞑った。



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