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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十章 正しき運命
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page.292

       ***



「アーサーの時代の……破壊……?」

「その通り」

「どうしてそれが正しい運命を壊す事になる!?いや、そもそもどうして正しいとわかってるなら、わざわざその運命を壊す必要がある!?」

「それはその正しき運命が非常に―――理不尽な物だからだよ」

「理不尽…………?」

「そうだ。考えてもみなさい。例えば、国王に就任祝いを述べに言っただけで妻を奪われ、殺される哀れな男。その者は運命によって死ななければならなかった。なぜならその男の妻が、別の男との間に新たなる時代を切り開く王を産み落とすからだ」


 ―――声が、出ない。

 それはマーリンも同じ。

 ゴルロイスの言葉は淡々と例を示しているだけなのに、泥を心に流し込まれていくように息苦しい。


「例えば幼い兄弟。彼らは愚王の施策によって両親を失い、途方に暮れなければならず、さらには処刑されなければならなかった。なぜなら彼らの死が王の器を正しき道へと戻す転換点になるからだ」


 ……やめて。

 次の言葉を言わないで。

 マーリンに聞かせないで。

 そう思うのに制止する声は出ない。


「他にも例をまだ挙げようか?―――例えばある魔術師。彼は育ての親と親友を亡くさなければならなかった。なぜなら―――その事によって王を導く事を決意するからだ」

「…………全部、決まってた事だって言うのか……?先生やミルディンが犠牲になることまで全部……」

「そうだ。正しき運命とはすなわち―――少の犠牲を省みず、世界という単位で正しき方へ進む……理不尽。そう、犠牲になったものには単なる理不尽でしかないのだよ」

「…………」


 マーリンが息を飲んだ音が聞こえてくる。

 小さく口をあけ、目を開き、揺れている。


「……そんなの……そんなのこじつけだ!!どうとだって過ぎた事には理屈づけできる!!お前の思い込みじゃないなんて証明できないだろ!!」

「しかし、それが事実だ。それは―――後ろの彼女が最もよくわかっているのではないかね?」


 ゴルロイスの言葉にマーリンが佐和の顔色を窺ってくる。


「―――意味がわかんない」


 しっかりと出た声と違って、喉はカラカラに乾いていた。

 ここで私が動揺すれば……マーリンが揺らぐ。そうなれば命が危ない。

 だから冷静なフリをしなくちゃ。

 そう、例えゴルロイスの話が―――真実だと確信していたとしても。

 だってそうだ。私は杖に言われて『新しい時代を切り開くために』マーリンとアーサーを導く湖の乙女の代行者になった。それの意味するところはつまり導くべきゴールがあるという事。それを運命だと呼ぶのならゴルロイスの言っている事に嘘は無い。


「ほう?どうやら湖の乙女はそこそこ頭が切れるらしいな」


 佐和の虚勢なんて見抜いているに違いない。ゴルロイスは愉快そうにしている。

 けれどやっぱりマーリンにとっては佐和が揺らがなかった事が幸いした。今までの動揺から立ち直り、ゴルロイスを鋭く睨みつけている。


「お前の言い分はわかった。だけど結局それはアーサーとウーサーを犠牲にするって事だ。言ってる事とやってる事が矛盾してる。それに」


 マーリンは強く握りしめた杖でゴルロイスを指した。


「アーサーは違う。確かに間違うかもしれない。失敗するかもしれない。それでもこいつはきっと皆が幸せになる世界を創ってくれる!俺がそうさせるって決めたんだ!」

「それが運命……可哀想に。そう吹き込まれたのだろう?後ろの女に」


 的確な指摘に佐和の背筋がぞっとした。

 何もかもこの人は知っている。


「サワに言われたからだけじゃない。俺の意志で選んだんだ!お前にサワをごちゃごちゃ言う権利はない!」

「……マーリン」


 ずっと悩んでいた。自分の望みを叶えるためにマーリンとアーサーを導く事。

 やっている事がどれだけ偉大でも、バリンの時やグィネヴィアの事。そういう事がある度に揺らいだ。

 このままでいいのかって。

 将来、辛い未来が訪れるとしてもそれを見て見ぬフリをしていいのかって。

 でもそれは佐和だけじゃない。マーリンが自分で考えて決めた事。

 一人の責任じゃない。そう言われた気がして心が軽くなったような気がした。


「俺が必ずアーサーを王にする。少の犠牲を良しとして大多数の幸福だけを選ぶ王になんかさせない!ミルディンの望んだ通り、俺はどんな人間だってやり直せる世界を創るんだ!」


 しかし、ゴルロイスはその返答に逆に満足げに微笑んだ。

 まるで待ち望んでいた回答が返ってきたような笑み。


「……残念だったな。創世の魔術師、いや―――マーリン。お前にそんな事はできない。なぜならお前は最初からそんな事ができる存在ではないからだ」

「……どういう意味だ?」


 マーリンの問いかけにゴルロイスは両手を広げて笑った。


「お前が生まれた理由はアーサー王を導くためじゃない。それは後から付け加えられた役割。その女に唆され、お前がそうありたいと思い込んでいるだけの事。お前が生まれた本当の理由は違う。お前が生まれた本当の理由それは―――私の新しい器になるためなのだから」

「な……!?」

「え……!?」


 マーリンがゴルロイスの器……?

 衝撃的な発言にすぐにマーリンが噛みつくように返した。


「嘘をつくな!」

「嘘ではない」

「出鱈目を言うな……!」

「出鱈目ではないよ。なぜならそれを目的としてお前は産まれたのだから。いや―――私がお前を産ませたのだから」


 ゴルロイスの言葉にマーリンも佐和も凍りついた。


「―――私がお前の父親だよ、マーリン」




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