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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十章 バンシーの涙
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       ***



「この音……!お城に異常事態が起きた時の!!」


 警鐘は激しく打ち鳴らされ続けている。バリンが城に単独で侵入してきた時とは全く違う。明らかに鐘の鳴らし方が乱暴で必死さが伝わって来る。

 佐和はすぐにマーリンに駆け寄った。


「マーリン!起きて!何か緊急事態みたい!!……マーリン?」


 さっきと違って佐和は手加減なんてしていない。それなのにどれだけ揺さぶってもマーリンは起きそうに無い。


「な、何で!?」

「やはり……あなただけ……でしたか。この魔術が効かないのは……」

「バンシー!どういう事!?これ魔術なの?」


 バンシーは胸元を握りしめ、苦しげに頷いた。


「ですが、創世の魔術師なら……あなたの呼びかけでなら目覚められるはずです……呼び続けてください」


 事態が正確に把握できないが、なんだかとてつもなくまずいという事だけはわかる。佐和はさっきより必死にマーリンの身体を揺さぶった。


「マーリン!起きて!お願い!マーリン!!」

「……サ……サ……ワ……?」

「マーリン!!」


 何度目かの揺さぶりでようやくマーリンが薄く目を開いた。その事に安心しかけた瞬間、マーリンが身体を起こす。


「何で、俺、こんな眠く……警鐘……?」


 未だ鳴り止まない五月蠅すぎる警鐘にもマーリンの反応は鈍い。


「マーリン、どうしたの?全然呼びかけても起きなかったんだよ」

「これは……」


 そこまで言ったマーリンの目が見開いた。さっきまでとは違う勢いで立ち上がる。


「これ……!!」

「マーリン?」

「気が付きましたか、創世の魔術師」

「バンシー?」


 マーリンを見ながらもバンシーの涙は未だ止まらない。しかし彼女は涙を拭う事もせず、必死の表情で佐和達を見上げた。


「来てしまったのです。この時が」


 遠くから誰かの掛け声が聞こえる。次いで金属音。

 聞き覚えのある怒声。

 戦う時の独特の怒気が遠くから聞こえてくる。


「何!?何で戦う音が聞こえてくるの!?」

「……ゴルロイスか?」


 マーリンの口から出た言葉に何も言えなくなった。

 まさか……向こうから攻めて来たってこと……!?

 バンシーがマーリンの言葉に頷く。その度に彼女の涙が床に弾けた。


「早く。一刻も早く……謁見の間へ……!」


 バンシーの言葉が終わるかいなやマーリンが駆け出した。一瞬、反応が遅れた佐和も急いでマーリンの後を追いかける。その背中にはすぐに追いついた。


「マーリン!どういう事!?」

「息苦しい……これは、あの時。ラグネルの城にかかってたのと同じ魔術だ。たぶん王宮中に張り巡らされてる」

「何それ!!」


 それでマーリンが中々起きられなかったの?

 一体いつの間にそんなものを仕掛けていたのか。いや、そもそも。

 何でこんなタイミングで王宮に乗り込んで……?

 唐突すぎる襲来に頭がついていかない。ただわかるのはバンシーのあの必死な様子からして佐和達は一刻も早く謁見の間に行かなければならないという事だけだ。


「急ごう……!」


 そう言いながらマーリンの走る速度は佐和と変わらない。彼もまた魔術の結界で力が出せないようだった。

 その横顔に焦燥の色が浮かぶ。

 マーリンも確か妖精に詳しかったはず……。

 もしかしたら佐和と同じ事を考えているのかもしれない。


 佐和の知識が正しければ……バンシーが涙を流すのは―――その家の人間が死ぬ時だ。


 ……アーサー……!




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