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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十章 魔術師強制収用所、再び
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page.275

       ***



 マーリンと違って佐和は魔術を使って姿を消したりなんてできない。それでも物影に隠れたりしながら何とか強制収用所まで誰にも見つからずに辿り着くことができた。

 ……きっとケイが融通利かせてくれたんだ……。

 そうじゃなきゃあんなに完璧だったアーサーの巡回網を佐和ごときが抜けられるわけがない。

 ほんとにありがとう……ケイ。

 心の中でケイに拝み倒してから、佐和は強制収用所前の広場に向かって一気に建物の影から駆け出した。

 辺りには誰もいないが念のためだ。

 よし……!誰もいない。このまま入っちゃおう……!

 初めてここに連れて来られた時と同じ。木造の大きな扉は閉じたままだ。

 確か、前は横の通用門みたいな所から入ったんだっけ……?あ、あった。

 通用門の扉を慎重に少しだけ押して中を覗き見てみる。

 前に来た時と同じならここに見張りの兵士がいるかもしれない。

 佐和の予想通り、扉の隙間から見えた所に兵士が二人いる。しかしその様子は佐和の予想とは真逆だった。

 二人とも地面に臥せっていて起き上がる気配がない。


「……」


 佐和は音を立てないように慎重に扉を開けて中に滑り込んだ。その瞬間、木造の扉が小さな音を立てて軋んだ事に内心飛び上がる。見張りが起きていれば、扉が開いた事に絶対気付くような音。

 それでも床に倒れたままの兵士はピクリとも動かない。

 これ……マーリンの仕業……?

 一応遠巻きに顔を覗きこんでみると、すぅすぅと寝息を立てて兵士達は気持ちよさそうに寝ていた。

 きっとマーリンの魔術だ……。

 佐和は兵から距離を取りつつそっと門番用の部屋を抜けた。この先は長い長い廊下。

 焦る気持ちを押さえ付けながら駆け足をするものの、廊下に佐和の靴音が反射する。

 何で……?

 どれだけ静かに歩こうとしても、自分の足音が反響して耳につく。嫌な雰囲気に堪えきれず佐和は遂に駆け出した。

 何で……こんなに静かなの……?

 早朝とはいえ、もうそろそろ誰か起きていても良い時間だ。それなのに廊下を進んでも進んでも人の気配が全く感じられない。

 何で、何で……!?

 やがて大きな中庭に面した渡り廊下に出た。誰もいない庭園には目もくれず、かつて佐和がブリーセンと寝泊まりした部屋へ向かう。

 もし新しいルームメイトさんとかいたらごめん……!

 心の中で一礼して見慣れた懐かしい扉をそっと開いた。

 しかし―――部屋は藻抜けのからだった。

 ブリーセンが使っている側のベッド周りには彼女の物がいくつか置いてある。強制収容所を出て行ったというわけではなさそうだ。

 こんな早朝に一体どこに?まだ食堂だって開いてないはずだし、授業なんてもちろんまだまだ始まる時間じゃない……。

 嫌な予感が膨らんで行く。

 すぐに隣の部屋の扉もそっと開けた。けれど、そんなに慎重に開ける必要はなかったとすぐに知る。隣の部屋にも誰もいなかった。

 何で……?

 次から次へと女性用の部屋の扉を開けて回る。

 ここも……ここも……ここも……!

 空。

 空。

 空。

 空。

 空。

 部屋には誰一人としていなかった。

 おかしい……おかしすぎる……!

 佐和は人影と先に着いているはずのマーリンの姿を探して駆け出した。

 静かな渡り廊下。

 朝日を浴びる中庭。

 小鳥のさえずり。

 響くのは自分の足音と呼吸だけ。

 絶対変……!

 その時、前方の大きな扉が唯一開きっぱなしになっているのに気づいた。そこは事あるごとに魔術師を集めるのに使っていた講堂だ。

 そしてその開け放たれた扉の前に、探し求めていたマーリンの姿があった。


「マーリン……!」


 ようやく会えた安心感のまま、マーリンに駆け寄り声をかけようとしたところで、マーリンの視線が何かに釘付けにされている事に気付いた。


「……マーリン?どうした……の……?」


 マーリンの視線を辿って、信じられない『その光景』に佐和もようやく気が付いた。


「…………なに……これ…………」


 講堂いっぱいに魔術師が横たわり、その身体で魔方陣を描いている。

 在り得ない光景に佐和も言葉を失った。




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