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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第十章 傍観者の賭け
272/398

page.271

       ***



 そしてその日の夜、佐和達は行動を起こした。

 正確に言えば、佐和の助言を聞き入れたマーリンが市街地を抜けるために選んだのは―――早朝。朝日が昇り始める少し前、その瞬間だ。

 アーサーの作った巡回は抜け目がない。なら最もリスクの少ない時間帯を選ぶぺき。そう考えた佐和の目に止まったのは夜が明ける瞬間、巡回班の交代のタイミングだった。

 案の定、城門は開け放たれ交代する兵士が立ち話をしている。

 その隙に佐和達は城から抜け出して、兵士から死角になっている近くの柱に隠れた。

 この作戦のために昨日の晩は佐和がアーサーにマーリンの体調不良を必死に訴え、何とか夜の巡回の休みをもらった。その時間を利用して今朝の作戦に向けて仮眠を取るためだ。

 柱の影で一息ついたマーリンはそれでもどこかしんどそうだった。


「マーリン、どう?少しは眠れた?」

「……うん、大丈夫」


 嘘だ。

 どう見たって心労で眠れていない。いくらマーリンが無表情だからといっても顔色まで変わらないわけじゃない。無理をしているのは明白だ。


「……そっか、なら良かった」


 けど、追求はしない。すれば、それはマーリンのせっかくの頑張りを踏みにじる事になる。

 マーリンは私に心配かけないように元気に振る舞ってくれてるんだもん……。本当は辛いなら辛いで良いのに……。

 でも、ここで佐和が「嘘つき!無理してるでしょ!」と言っても、マーリンは佐和に心配をかけた事の方を気に病むに違いない。

 だから……言葉じゃ……無理だけど、とにかくマーリンの負担を減らせるように頑張んなくっちゃ……!


「まずは石畳だ。足音なるべく出さないように」

「わ、わかった……」


 マーリンが小声で唱え始めたのは以前2回も佐和を助けてくれた姿の見えなくなる魔術の呪文だ。

 唱えている途中で何かに気付いたマーリンが佐和に手を差し出す。


「何?」

「……説明してなかった。そういえば……」


 不思議がっている佐和を見てマーリンが珍しく視線を彷徨わせている。


「この魔術は音が消せないのともうひとつ欠点があって…………術者(おれ)に触ってないと姿が消えないんだ」

「…………」

「…………手、嫌?」


 い。

 嫌なわけがない……!!

 けれど「嫌?」と覗きこんできたマーリンの整った顔に心臓が縮みあがった佐和の口は、金魚みたいにぱくぱく空気を吐くことしか何故かできない。


「嫌なら別の方法を……やっぱり抱き上げ」

「繋ごう!繋ごう!手を繋ごう!」


 このままだとマーリン念願のお姫様抱っこコースになりかねない。佐和は慌てて手を差し出した。

 何だか不可解そうに、かつどこか納得の行かない顔になったマーリンだが、すぐに佐和の手を握った。

 う……わ……。

 マーリンと手を繋ぐのは、これが初めてなわけじゃない。

 だけど、繋いだ手が以前より大きく、逞しくなっているように感じて緊張してしまう。

 ……これはあくまで見つからないため……!マーリンが私を好きな事とは関係無いんだから冷静になれぇー。自分……!

 佐和が心の中で気合いを入れ直したタイミングで、マーリンが佐和をそっと立たせた。


「行こう」


 交代した新しい巡回兵が動き出す。それに合わせて石畳を歩けば彼らの甲冑の金属音に紛れてここを抜けられる。


「……うん!」


 マーリンにエスコートされるがまま、佐和も慎重に歩き出した。



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