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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 望を教えて
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       ***



「次に目が覚めた時、私の姿は皆様とお会いした時の老婆の姿になっていました。それから二十数年……あの城と、兄様達、姉様、そして私は呪われた姿で生きて……きました……」

「ラグネル……」


 ガウェインが気遣い一歩だけ歩み寄ったが、すぐにラグネルは首を振って気を取り直した。


「ある時、一番上の兄様と姉様があの者に操られキャメロットへ連れて行かれました。あの者は復讐のために兄様達を利用すると言っていました……」

「それがあの王宮に浸入して来た者の正体か……」

「……はい」


 じゃあ、ガウェインが斬った以前の緑の騎士はラグネルのお兄さんで、もしかして闘いの最中割り込んで来た女性というのは……。


「その者は国王陛下に復讐するために、兄様達を刺客として差し向けると……そして、万が一にでも兄様が負けるような事があれば……その時は姉様を操って……その場に割り込ませると……」


 やっぱり、ガウェインが殺してしまったのはラグネルの一番上のお兄さんとお姉さんだったんだ……。


「もしも不死身の騎士に勝って王が名声を得るなんて事にならないように、姉様を……無抵抗の女性を殺させる事で騎士としての名声に泥を塗る……と……」

「……なんて奴だ……!」


 アーサーが憤るのも無理は無い。緑の騎士とその女性は王家に何の恨みも、関係も無かった。

 それなのに命を良いように操られて不本意な殺戮を繰り返させられ、挙句、王の顔に泥を塗るためだけに使い捨てられるなんて。

 けれどその作戦はガウェインによって阻まれた。その人達が狙っていた憂き目に遭ったのはガウェインだ。


「私は何もできず……結局、兄様達は帰って来なかった……何が起きたのか風の噂で知り、もう二度と会えない事を悟りました。その間も残った兄様はその者達の命で次々と殺したくもない罪もない人々を殺し続けていました……私は何もできず、ただ……一縷の希望を託し、私と婚姻してくださる騎士が現れるよう祈り続けていたんです……」

「なら、あの霧は一体何だったんだ……?」

「あれはその者達が私に騎士が近づけぬようかけた呪の一種です。本物の誠実な騎士だと証明できるよう、いくつもの誓約が私には課されていたのです。まず、守るべき女性の言葉に耳を傾け、先に剣を置くことができなければ本物の騎士ではないと……霧に現れた幻影の私は訪れた騎士を攻撃し、剣を置くように言うのです……そのような要求を飲んでくださる騎士は現れませんでした……」

「だから、ガウェインが初めてあなたを庇った事でその魔術が解けた」


 マーリンの確認にラグネルが頷く。


「呪のせいで、私は肝心な部分をお話しする事ができません。そんな状態で、あの醜い老婆の姿の私の声に耳を傾けてくれる騎士は二十数年待っても一人も現れませんでした……もう諦めかけていたその時、殿下達が―――ガウェイン様が来てくださった……」


 ラグネルの瞳いっぱいに涙が溢れる。ガウェインの顔を見上げ、幸せそうに微笑んだ。


「本当に嬉しかったです……たった、たったの二日間でしたが……この二日間は呪にかかってからの二十数年間の中でまるで夢のような日々でした……これでようやく残った兄様もきちんとあの世に行く事ができたんです……」

「……ラグネル」

「ラグネル。俺たちはその灰色の髪に淡い黄色の目をした魔術師を引き連れた男を追ってここまで来た。奴は亡くなったはずのゴルロイス公の名を語り、今もまたキャメロットに仇を成そうと各地で暗躍を繰り返している。何か他に知っていることはないか?」


 アーサーの問いかけにラグネルの涙に濡れた瞳がみるみる大きくなった。驚いたまま呆然とガウェインからアーサーに視線を移す。


「……殿下?何をおっしゃっているのですか?その者は……私達一族に呪をかけた者の一人はそのゴルロイス公ご本人です」


 ラグネルの衝撃的な発言に全員が驚きのあまり言葉を失った。


「……な、何を言っている?ゴルロイス公は二十五年前に亡くなっている。だが、その例の男と俺はついこの前会っているんだぞ」

「ゴルロイス公は亡くなっていらっしゃったのですか……?私、それは知らずに……でも、確かに私達に呪をかけたのはゴルロイス公です。何度かお目にかかった事があるので間違いないです」

「お前が呪われたのは正確に何年前の話だ?」

「二十四年前……だったと思います……」


 亡くなった次の年……?

 在り得ない。あのゴルロイスは……幽霊だったとでも言うのか。


「どう思う?ケイ」

「……考えられる可能性は今の所二つだな。一つはあの魔女モルガンの何らかの魔術で延命したか、もう一つは殺したと思っていたけど実は息があって生き延びたかだ」

「同じ特徴を持ったゴルロイス公に似た一族の別の者の復讐という線は無いのか?」


 イウェインの推察にケイは考え込んだ。


「なくは無いかもしれないけど……ゴルロイス公の親戚関係は全員あの時亡くなったはずだ。紋章官に確認を取ればわかる。可能性は限りなく低い」

「ケイ、あの時って何だ?」

「……俺が生まれる直前、父上が魔術師の力を借りてゴルロイス公に扮装し、母上に俺を産ませ……同タイミングで本物のゴルロイス公を討った時の事だ」

「アーサー……」

「記録ではその時にゴルロイス公の親戚、一族、全て根絶やしにされたはず。生き残りがいるとは思えない」


 マーリンの質問に答えたのはアーサーだ。その顔は険しい。

 自分で自分の傷に塩を塗り込んでいる。見ていられない。


「ゴルロイス公自身の謎の真相はわかりませんが、例のカメリアドを占領していた、国家転覆を狙う魔女モルガンの背後にいる男は、そのゴルロイス公の関係者という事で間違いなさそうですね」


 この中で最もそこら辺の詳しい事情を詳しくは知らないがゆえに、事務的にまとめる事のできたランスロットの仮定は確実性が高い。

 そうなら、自称ゴルロイスがラグネルに向かって言っていた『復讐』という言葉にも頷ける。

 理不尽に、妻を、土地を、家を、家族を、そして自分の命を奪われたゴルロイス公の復讐。

 それならウーサーを狙うのは勿論わかるし、同じ目に合わせてやりたいと考えているなら跡継ぎであるアーサーを狙うのも必然だ。


「しかし、魔女モルガンはなぜその男に付き従っている……?奴もまたゴルロイス公と所縁のある者なのか?」

「それは調べてみませんと何とも言い難いと思います。もしかしたら単なる利害関係の一致かもしれませんし」


 イウェインの発言を聞きながら佐和はどこかこの話し合いに腑に落ちない部分があるような気がしてならなかった。

 何だろ……何だかすっきりしない……まだ、何か……大事な事を忘れてるような……。


「ラグネル、もう一人、ゴルロイス公と一緒にいた者は女性だったんだな?」

「はい」

「特徴を覚えているか?」

「……申し訳ないです……その時の記憶がかなり混乱していて……フードもとても深くかぶっていましたし……その日は激しい雷雨で、城の中も薄暗かったので……」

「俺たちが追っているゴルロイスにモルガンという魔女が行動を共にしている。黒髪に真紅の瞳をした女だ」

「……あまりよく覚えていませんが……違っていたような気がします」

「そうか……助かった」


 そうだ。モルガンだ。

 佐和が感じている違和感の正体。

 それは、もし例のゴルロイスが自称で別人だったとしても、生き延びていた本人だったとしても、佐和を―――湖の乙女ニムエを殺す動機が無い事だ。

 でも、あの人達は皆私を―――湖の乙女ニムエを狙ってた。

 そこには恨みや復讐とは関係ない目的が必ずある。

 そこにこそ、この一連の事件の秘密があるような気がした。

 思い思いに議論していた所で突然ラグネルの身体が淡く光り出した。全員驚いて思わず一歩下がる。


「ラグネル!?」

「……申し訳ございません、殿下、ガウェイン様。もうお時間があまり無いようです」


 先程の緑の騎士と同じ、まるで蛍のような光の粒がラグネルから飛び立っていく。

 唐突な出来事に全員動きを止めて光に包まれていくラグネルを見た。



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