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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 掻き消された声に報いる
256/398

page.255

       ***



「一体、何だ!?」


 アーサー達の声が聞こえる。向こうまでこちらの異変が伝わったらしい。当たり前だ。

 誓いの口づけを受けた瞬間、ラグネルの身体を縛っていた光の糸がたわみ、宙へ待っていく。それは、まるで光が描いた輪のように城中に波紋を広げ、優しい光を放つ。

 その中心にいるラグネルの小さな身体が光に包まれ浮かび上がる。そして、呆然と見上げる佐和達の前でその光がはじけると一人の女性がそこから現れた。

 ラグネルさん……?

 宙に浮き瞼を閉じていたのは、醜い老婆などでは無かった。

 淡い光にそよぐ髪は小麦のように優しいブラウンのウェーブ。着ているブラウスやワンピースは華美ではないが綺麗に裾がなびいている。短い前髪の下、ゆっくり開いた瞳は黒曜石のよう。

 彼女が瞼を開けた瞬間、光の波紋がさらに加速した。


「何だ!?」

「これは……!」


 波紋が広がり、佐和達の足元を駆け抜けて行く。やがて波はアーサー達まで到達し、足からアーサー達の身体に伝わっていき、優しい光が身体を駆け抜けると、アーサー達の傷がみるみるうちに消えていく。


「傷が癒えた!?」

「これは一体!?」


 逆に光の波紋を浴びた緑の騎士の動きは鈍くなり、軋む音を立てて、その場に縫い付けられたように呻き出した。


「……ラグネル?」

「ガウェイン様」


 地面に降り立とうとした彼女をガウェインがそっと受け止めた。不思議なことにガウェインは発作を起こしていない。

 ゆっくりとガウェインが地面に彼女を下ろし、改めて変貌を遂げた自分の妻をまじまじと見ている。


「本当に、ラグネルなのか?」

「はい、ガウェイン様」


 戸惑うガウェインと瞳に涙を浮かべる女性―――ラグネル。

 それを呆然と見ていた佐和にマーリンがこっそり語りかけてきた。


「サワ、ラグネルを縛ってた共感魔術の縁が弾け飛んだ」

「それって……もしかして、さっきの光?」


 マーリンが頷く。

 魔術師じゃない佐和やアーサー達にまで見えたという事はマーリンの言う通り彼女を縛っていた共感魔術はよほど強力だったようだ。


「ガウェイン様、私はこの城の者です」

「っていうと……あの行方不明になった四兄弟貴族の……」


 ガウェインの確認にラグネルは頷いた。


「末の妹です。先程もお話しした通り、あれは私の兄様です……。魔術師によって不死の操り人形となってしまった……自我も、心も砕け散って残っていない。ただ、ひたすら魔術師の望むまま、破壊を繰り返すだけの化け物になってしまった……」

「ラグネル……」

「ですからどうか、ガウェイン様。あの騎士を―――兄様を、お助けください。十数年前、もう一人の私の兄様を呪から解放してくださったように。もう一度、兄様を永遠の責め苦から解放してあげてください……!」


 涙をこぼし、ラグネルがガウェインに懸命に頭を下げる。戦う事も忘れてアーサー達もこの光景に見入っている。


「どうか……お願いします……どうか……」

「ラグネル」


 俯いてしまったラグネルに対して、ガウェインはもう一度膝を着きその手を取って甲に口づけた。

 その事に驚いてラグネルがガウェインの顔を見返す。

 その涙にガウェインは、太陽のように明るい笑顔を向けた。


「―――当たり前だろ、奥さんの頼みだからな!」

「……ガウェイン様……」


 ガウェインはラグネルに背を向け、腰から剣を抜き歩き出す。アーサー達の元へ向かう背中が佐和には大きく見えた。


「……ガウェイン、お前……」

「アーサー、わりぃ。そういうわけだから、ここは譲ってくれ」


 緑の騎士は未だに悶え苦しんでいる。ガウェインは悠々とアーサーに並び、笑いかけた。

 アーサーは少しだけ躊躇したようだったが、すぐに決意を読み取ったらしい。ガウェインに寂しげな笑顔を返し、肩に拳を当てる笑みを浮かべた。


「負ける事は許さん」

「当たり前だろ!」


 アーサーの目線に促され他の騎士も下がる。ホールの奥にいるのは緑の騎士とガウェインだけになった。

 苦しみ続ける緑の騎士が叫び声をあげる。空気を震わせる殺気と狂気。

 それを真っ向から浴びながら、ガウェインがゆっくりと息を吸うのがわかった。


「……今、楽にしてやるからな」


 ガウェインが剣を構え、緑の騎士に向かって駆け出した。




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