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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 祝福のない結婚式
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page.253

       ***



 前回と同様、扉を開けて中に進んでも城の中は静かだった。やはり時間に置き去りにされたただの古城にしか見えない。

 慎重にランスロットとイウェインが足を進めるのを見守りながら佐和は横のマーリンに耳打ちした。


「どう?マーリン」

「前回よりやっぱり結界が弱まってる。それに……」


 そこで言葉を切ったマーリンは、ガウェインの横にいる老婆に目をやった。彼女はただゆっくりと城に足を踏みいれ、城の中を見上げている。

 その時、雷鳴がホール中に響き渡った。


「来たぞ!!」


 アーサーの言う通り、雷光とともに例の全身緑色の騎士が姿を現した。前回とは違い、いきなり雄叫びを上げこちらに襲い掛かってくる。

 初撃を華麗に避けたイウェインが剣を構えなおした。


「前回よりも凶暴性を増している……!?」

「でも、僕らも前回より動けます!」


 ランスロットがすぐに追撃をかけ、イウェインの体勢を立て直す時間を確保する。緑の騎士はその剣を易々と斧で受け止めた。


「ランスロットの言う通りだ!俺たちも加勢するぞ、ケイ!」

「了解ー!」


 アーサーとケイも加わり、四人で緑の騎士を囲む。それを見た緑の騎士がまるで苛立ちをぶつけるように最大音量で雄叫びをあげた。

 空気が震撼し、窓ガラスがびりびりと震えあがる。


「こいつ……今日はやたらと荒れているな!」

「けれど、そのような物で怯む私達ではありません!」

「ぷりぷりの言うとーり!悪いけど、四人がかりで倒させてもらうぞ」


 四人はいきりたつ緑の騎士に剣を向けた。



       ***



「順調……なのかな?」

「そう見えるけど……魔術が完全に解けたわけじゃない」


 佐和の問いかけにマーリンは目を(すが)めて緑の騎士をよく見ようとしている。


「あの緑の騎士にも縁が巻き付いてる。ラグネルの縁はぐるぐる巻きで動きを縛るみたいだけど、あの騎士のは……操り人形みたいだ。手足に重点的に巻かれて……もしかして、操られてる……のか?」


 

 操られてる?

 マーリンの言葉に疑問を感じながら佐和は戦いに目を戻した。アーサー達の動きはいつも通りだ。けれど、ここから見ていても、はらはらする闘いだった。


「くそ……!俺たちは普段通りに動けるようになったが……こいつの不死身性は変わらないのか!?」

「今一度、殿下!」


 先程からイウェインが、ケイが、ランスロットが、そして誰よりもアーサーが、緑の騎士に致命傷を与えているのにも関わらず、緑の騎士は死なないどころか膝を屈しもしない。

 斬られた瞬間は動きこそ止まるものの、すぐに斬られる前と同じ動きを見せて立ち回ってくる。

 やがて四人の息があがりはじめた。


「ケイ!」


 イウェインの勧告で、ケイがかろうじて緑の騎士の斧を躱した。しかし、躱しきれなかった分、かすり傷から血が流れる。


「無事か!?」

「俺は大丈夫だ!それよりイウェイン!気をつけろ!!」


 ケイに気を取られたイウェインに緑の騎士が斧を振り回し、横なぎに払った。イウェインは左手に隠していたタガーとレイピアで斧を受け止めたが、腕力が違う。そのまま吹き飛ばされてしまう。


「……っく!」

「イウェイン卿!」

「イウェイン!」


 ランスロットとアーサーが同時に飛び上がり、死角から緑の騎士に斬りかかった。二人の剣が寸分たがわず緑の騎士の肩に食い込む。


「……!?くそ!抜けん!」


 斧をいきなり手放した緑の騎士は剣が抜けずに戸惑っていたアーサーとランスロットの頭部を鷲掴み、そのまま地面に叩きつけた。


「アーサー!!ランスロット!!」


 城の床に亀裂が走る。二人は受け身を取ったものの、背中を打ったのか苦しそうにむせている。


「くそ……無事か?ランスロット……?」

「はい……殿下……」


 よろけながらも立ち上がり、四人はまた緑の騎士に向かって剣を構える。しかし、息も絶え絶えの四人に比べて緑の騎士は呼吸1つ乱していない。


「このままじゃ……!」


 四人ともやられちゃう……!

 マーリンが魔術で助けるわけにはいかない。それにマーリンの不安が的中していてこの魔術をかけた魔術師がマーリンよりも優れた魔術師なら、マーリンが例え魔術で助けたとしてもあの騎士は決して倒れない。


「やっぱりあの騎士にかけられた魔術を全部解かないと……!」


 そう叫んだマーリンと一緒に少し前にいるガウェインとラグネルに駆け寄る。


「ラグネルさん!他にまだやる事があるはずだ!教えてくれ!」

「お願いラグネルさん!」


 マーリンと佐和の懇願にラグネルは答えなかった。代わりに横にいるガウェインを見上げている。

 ガウェイン……?

 ガウェインは佐和達が駆け寄って来た事にも気付かず、ホールの上階の廊下を揺れる瞳で見つめていた。



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