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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 祝福のない結婚式
253/398

page.252

        ***



「さて、これで言われた事は全て果たした。次は何をすれば良いんだ?」


 やさぐれたアーサーが老婆ラグネルに話しかけた。

 言われた通り、アーサーはラグネルに騎士ガウェインを夫として与え、協会で誓いを立てた。言われていた要求は全て終わったわけだ。

 彼女はゆっくりと振り替えると、また誰も予想していなかった事を言い出した。


「何も」

「何も?どういう事だ?」

「これで全ての準備は整いました。後はあの城に戻り、()の騎士の元へ向かえば」

「本当にこれであの騎士を倒せるのだな?」

「……それは、貴方(あなた)様方次第です」

「また話せない事か」


 もうそろそろアーサーもラグネルの語れない事に折り合いをつけられるようになったようだ。腕を組んで少しだけ考えこんでいたがすぐに立ち上がった。


「行ってみよう。もしも駄目だった時は前回同様撤退し、作戦を立て直す」

「わかった」


 アーサーの決断に従い、全員立ち上がる。その顔は皆、凛々しい。


「行ってみよう。呪われた城へ」



       ***



「霧が晴れていますね……」


 イウェインの言う通り、初めて来た時にはあれほど濃かった霧の影も形も無い。おかげで湖に浮かぶ城の外観がようやくはっきりとわかった。

 広い湖の中心にそびえ立つ純白の城は荘厳な雰囲気で、湖面の光を受けて城の白い外壁に揺らぐ水面が映っている。

 本当に……綺麗なお城だったんだぁー。

 感心しながら、前回と同様に桟橋を目指す。湖畔からかかっている桟橋の長さが視認できる。前回は霧のせいで距離感が全く掴めなかったが、思っていたよりも短かった。湖の中心の城まで綺麗に伸びている。


「桟橋が前回より短くなっている……?」

「これもラグネル様のおかげかな?」


 ケイの軽口にラグネルは答えない。大して気にした様子もなく、ケイは肩を竦めてみせただけだ。

 今度は息切れしたりするという事も無く、あっさりと城の扉までたどり着いた一同にアーサーが振り返り全員の顔を確認した。


「前回と陣形を変える。先陣はイウェイン、ランスロットお前ら二人だ。万が一、例の呪いが解けておらず俺たちが力を失った場合、影響の少なかったお前たちで退避するまで時間を稼いでくれ」

「承知いたしました」

「畏まりましたー!」

「よし、無茶はするなよ。呪いが解けていた場合は、あの騎士を攪乱させるんだ。次いで俺とケイだ。呪が解けていた場合、戦闘にそのまま加わる」

「わかった」

「マーリン、サワお前らに退路の確保を任せる。ガウェイン、お前はマーリン、サワの近くで待機だ。異変を感じ取ったらすぐに知らせろ。お前が対処できないようならケイか俺を呼べ」

「でも、俺は……」

「……お前の妻を放っておくわけにはいかないだろうが。しっかり守れ」


 不服を言おうとしたガウェインにアーサーが微笑みかけた。その視線の先にはガウェインの横に立つラグネルがいる。

 この中で最も何もできないのはラグネルだ。いざとなったら一番足手まといになる。それに夫であるガウェインをつけるのは当たり前といえば、当たり前なのかもしれない。

 でも、それと同じくらい、きっとアーサーはあの緑の騎士とガウェインを闘わせたくないのかも……。

 忌まわしい記憶、(にが)い過去の象徴。それと正面から向き合う必要は無いと。

 ガウェインが何か言いかけたが、アーサーとラグネルを見て言葉を飲み込んだようだった。


「……わかった」

「よし……行くぞ」


 全員が鞘から剣を抜く。

 もう一度、あの粉々に打ち砕かれた戦場へ戻る騎士の背は、皆凛々しかった。




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