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「はい、殿下。―――私は、あの城の呪いを解く方法を知っています」
その言葉にアーサーだけじゃない。他の皆も目を丸くしている。
無理もない。子供の噂からまさか、本当に解決の糸口がこんなにあっさり見つかるとは誰も思っていなかった。
「なぜそんな事を知っている?」
「お答えできません……」
「またか……!」
「アーサー……」
また言い争いになりそうになったアーサーを止めたのはガウェインだ。右半身に薬草を貼りつけたまま弱々しく笑っている。
「言えねぇ理由が、きっとあんだよ。あんまし責めてやるな」
「……しかしだな!…………いや……わかった……」
ガウェインの言葉で落ち着きを取り戻したアーサーが改めて老婆と向き合う。
「俺達はどうしてもあの城にいる騎士に聞きたい事がある。しかし、城に入った途端動けなくなってしまった。どうにかしてあの城にかけられた呪いを解きたい。協力は……してもらえるか?」
アーサーの問いかけに皆息を潜めて老婆の答えを待った。
老婆はしばらくアーサーが自分に真っ向から向き合っているのを観察していたが、やがて重たい口を開いた。
「私が呪いを解く方法を先に説明することはできません。しかし、解く事はできます。」
「そうか!なら、さっそく」
「しかし、それには条件があります」
条件……?
佐和以外のメンバーも首を捻っている。アーサーは厳しい目で老婆を値踏みするように睨み付けた。
「……金か?地位か?名誉か?」
「いいえ、そのようなものではありません。ただ、1つだけ。殿下が私の望むものをくださればいいのです……」
「何だ、それは」
あからさまにアーサーが眉を潜めた。けれど、それも無理はない。
私だって同じ立場なら、絶対怪しむ。何が欲しいかわからないのに、先にあげることを確約するなんて、条件が不利すぎる。
だが同時に、老婆がアーサーに害を成す為にこんな嘘をついているようにも佐和には思えなかった。
だからこそ、余計に混乱してしまう。
この人は……何がしたいんだろう……?
「アーサー」
アーサーの横にマーリンが並ぶ。マーリンは腰かけている老婆を少し観察すると、言葉を選びながらアーサーに語りかけた。
「この人、何かあの城と関係がある……んだと思う。それで呪いを解くのに先に方法を話せないのも、その呪いと関係がある……のかも」
マーリン?
マーリンは不確定のように語尾を付け足して話しているが、魔術関連の事だ。本当は何か佐和たちには見えていないものが見えているのかもしれない。
というか、絶対そう。
なら、本当にこの老婆はおの城の魔術について何か知っていて、呪いを解く事ができるのかも。
「根拠はあるのか?マーリン」
「…………感?」
「何故疑問形なんだ!全く……」
アーサーが髪をかきあげる。佐和達と違って彼は王子だ。簡単に頷ける要求じゃない。
暫くの間、アーサーは腕を組み、考え込んでいたが、やがて決断を下した。
「……わかった」
「アーサー!」
珍しく声を荒げたのはケイだ。諌めようとしていたケイをアーサーが手で制する。
「お前に―――いや、騎士が礼を払うべき女性に俺たちが無礼を払った事は事実だ。その詫びもある。要求を呑もう……ただし、1つだけ質問に答えてくれ。もしも答えられないなら、それでも良い」
アーサーは醜く潰れた老婆の目を真っ向から見据えた。
「お前は……ガウェインの行いをどう思った?」
なんでそんな事聞くんだろう……?
もしも、老婆の人間性を図ろうとしているのだとしても、そんな質問、この場の嘘1つで終わってしまう。
ケイもイウェインもランスロットもそれがわかっている。だから、不安そうにアーサーを見たままだ。
「感謝しています……とても」
老婆のしゃがれた耳障りな声音からは真意は読み取れない。けれど、先程までの数々の問いかけの時とは違い、老婆はアーサーの質問に明確に答えた。
それを見てアーサーも腹をくくったようだ。
「……では、先ほどの無礼の侘びとしても、貴殿に望むものを与える。何が望みだ?」
全員が老婆に注目した。
一体この人物が何を言い出すのか、ここにいる誰にも予想がつかない。
「私が望むものはたった1つだけです、殿下」
皆の緊張が高まる。
そして、老婆は本当に『誰もが予想していなかった』ものを求めた。
「殿下の優れた騎士の一人を、私の夫としてください」
「……………………………………は?」
その要求に全員が固まった。