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「これで……決着だ……!」
老婆にアーサーが斬りかかる。老婆が先ほどと同じように瞬間移動して攻撃を避けようとしているのがマーリンにはわかった。
けど、無駄だ……!
老婆も気づいたようだ。老婆がアーサーの剣を避け、例えどこに移動したとしても全方位をしっかり他の騎士が固めている。逃げ場は無い。
「…………やはり……駄目でしたか……」
アーサーが今まさに老婆を斬るその瞬間、老婆の呟きにマーリンが気付いたのと、アーサーの剣が止められたのはほぼ同時だった。
「ガウェイン!?」
アーサーの剣を止めたのは―――ガウェインだった。
老婆とアーサーの間に割り込み、老婆を庇っている。
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「退け!ガウェイン!何故敵を助ける!?」
「アーサーこそ何言ってんだ!この人助けてって言ってるじゃねぇか!」
「何を、言っているガウェイン!そこを退け!」
本当にこの老婆が敵なら、そうするべきだ。けれど、ガウェインにはそうは思えなかった。ガウェインは背後の老婆を横目で確認した。
醜い顔に怪しげな黒いローブ。そこから見える手足は呪われた木々のように痩せ細り、捻じ曲がっている。確認した瞬間、吐き気を催すほどの腐臭が鼻を突く。禍々しい身体。
それでも……。
彼女の身体から言葉にならない悲鳴が聞こえるのだ。
助けて。
助けて。
助けて。
助けて。
ガウェインは目の前の主君に声を張り上げた。
「……アーサー!こいつは助けを求めてる!話を聞いてやってくれ!」
「だが、ガウェイン!その者は魔術を使い、俺達を襲ってきた!話し合いも何も、その時点で敵だ!」
「でも、こいつは、剣をしまって欲しいって言ってる!」
「敵に武器を捨てさせるための言葉に決まっている!」
「アーサー!」
駄目だ。アーサーは完全にガウェインの話を聞く気がない。
他のやつらもかよ……!
アーサーの後ろのマーリンもケイもイウェインもランスロットも老婆に敵意を向けている。
「ガウェイン、そいつはあの呪われた城にどうやら魔術をかけた本人のようだ。解くよう説得もしたが、無言か俺達に剣を置くよう言うだけ。話し合いは無理だ」
助けて。
お願い。
―――誰か、助けて。
それでも、ガウェインの背後から聞こえ続ける悲鳴は鳴り止まない。
ガウェインは悩み、アーサーと老婆を交互に見比べ、先ほどまでの思い出を脳裏に浮かべていた。
「ガウェイン、お前にその老婆を斬れなどと、無理矢理命令する気は無い。退くだけでいい。俺がやる!」
アーサーがこちらに向かって、いや、ガウェインを避けて老婆に斬りかかろうと狙いを定めている。
助けて。
「退け!ガウェイン!」
助けて。
「動けないというなら、そのままそこに立っていろ!動くなよ!」
助けて。
助けて。
助けて。
助けて。
ガウェインは歯を食い縛り、覚悟を決めた。