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「無事か!?アーサー!」
「お前ら……!」
アーサーを取り囲み、守ったのはケイ、イウェイン、ランスロットだ。
彼らが高速で霧の槍をすべて切り刻み、アーサーには傷一つ無い。
「よく合流できたな」
「あの老婆を追いかけてたらな」
「私もです……一人で戦っていたはずなのですが……逃げる老婆を追いかけていたら殿下の危機が見えまして」
「イウェイン卿もですか?僕もですよ。一体あのご婦人は何人姉妹でいらっしゃるんでしょうね?」
「馬鹿か、ランスロット。魔術に決まっているだろうが」
そう言いつつ、老婆に向かい合った四人の後ろにマーリンも合流する。
相手が魔術師で、マーリンは手出しできないとはいえこちらは騎士が四人。これなら勝てる可能性も高い。
「マーリンも無事かー?」
「サワとガウェイン殿は?」
「合流できてない……」
マーリンの返答にイウェインの顔が少し青くなった。
俺だって、こんな状況でサワを一人にしていると思うと不安で堪らない。
その様子を見たランスロットとケイの目が真剣になった。
「……心配ですね」
「ああ、ガウェインも昨日の事があるし、サワーは戦えない。早く助けに行ってやらないと、だな」
「ケイの言う通りだ。一気に片をつけるぞ」
老婆はこちらの様子を静かに見ているだけで、手出しをしてくる気配は無い。その窪み、歪んだ顔がこちらに向けられた。
「どうか、剣をお納めください」
「何度言えばわかる。ならば、攻撃を止めろ。そうすれば話を聞いてやる」
「……できません」
「話にならないな」
アーサーが残り三人の騎士に目で合図を送った。三人ともが頷き、切っ先を老婆に向ける。
「最終通告だ。この霧を晴らせ」
「できません」
「呪われた城について何か知っているか」
「お答えできません」
「貴様は魔術師か」
「……」
「攻撃を止めろ」
「……できません。ですが、どうか剣をお納めください」
「……無駄なようだな」
アーサーの鋭い眼光が老婆に定められる。初めて出会った奴隷商人の砦で、魔術師に向けた冷たい瞳。
敵を斬る覚悟を宿した眼差しだった。
***
「おーい!アーサー!?ケイー!イウェインー!」
濃い霧の中、ガウェインは一人一人仲間の名前を呼びながら歩き回っていた。
「ランスロットー!マーリン!サワー!……誰も近くにいないのか……」
答える声は無い。どうやら全員とはぐれてしまったようだ。
ガウェインは大声を出すために口元に持ってきていた手を下ろした。その掌をじっと見つめる。
……昨日、あの城で会った緑の騎士。
騎士に成り立ての頃、自分が最初に倒した相手。
そして―――初めて殺した相手。
だが、ガウェインも騎士だ。敵である相手を倒す事―――つまり殺した事に後悔しているわけではない。アーサーや叔父を守るためにあの緑の騎士と決闘をした事自体を間違いだったとは思っていない。
けれど……。
彼女は違う。
彼女は何の罪も無い女性だった。
ただ闘技場に入ってしまっただけかもしれない。
あの騎士の知り合いで何か事情があり、命乞いをしたのかもしれない。
詳しい事は、今でも何もわかっていない。
それでも、自分が無抵抗の女性を頭に昇る血に任せて貫いた事に変わりはない。
あの城の二階、確かに渡り廊下から『彼女』はガウェインを見ていた。
顔も表情もわからない。でも、確かにガウェインを見ていたのだ
「はは……ついに幽霊が見えるようになっちまったってか……」
本当はわかっている。
あれはきっと―――自分が創り出した幻だ。
彼女は死んだ。死んだんだ。俺が殺した。俺がこの手で……。
その時、ガウェインの横の霧にぼんやりと何かが映った。足を止めて見てみるとだんだんと霧に映る景色がはっきりしてくる。
これは……あの時の……
ガウェインは、その景色に向かって歩き出した。