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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 ニワトコおばさん
238/398

page.237

       ***



「本当に霧深いな……」


 馬は村に置き、徒歩で佐和達は『ニワトコおばさん』なる人物がいるという森を歩いていた。

 ランスロットとイウェインが聞いた話によれば、子供達も村の外で遊んでいた時に、ふとした拍子で森に入り込み気がつけばその人物と出会ったらしい。

 故に、ニワトコおばさんの正確な居場所はわからない。


「しかし、会った事があると述べた子供達が皆共通していたのは、霧の中をしばらく歩いていたら突然視界が開けて、見たこともないほど大きなニワトコの木が枝葉を広げ美しい野花が咲き乱れている場所に出たという事でした。その木の根元に腰かけている老婆の事を子供達は『ニワトコおばさん』と呼んでいるのだと」

「つまり本当の名では無いのか」

「はい、その後、子供達は大人にその話をしたみたいですけど、最初は信じてもらえなかったみたいですね。でも、あまりにも何人かの子が同じ事を言うようになって、その度に毎回神隠しのような騒ぎになってしまうので、今は大人達から森に近寄るのも、その話をする事も禁じられているようです」

「イウェイン、ランスロット。そんな中、よく子供達から話を聞き出せたな」

「子供って案外、警戒心強いですもんね」


 佐和もイウェインとランスロットに感心した。ランスロットの目の付け所も勿論すごいが、それを自由に実行させたイウェインの度量もやはりすごいと思う。


「最初は不審者かと疑われてしまったがな……」

「そこで、しばらく子供達と遊んで仲間に入れてもらったところで話を聞いてみたんです。楽しかったですねー、イウェイン卿!イウェイン卿がかくれんぼの仕方がわからなくて、見かねた優しい子がイウェイン卿の手を引きながら探して回っていた姿は、とても微笑ましかったですよ」

「ラ、ランスロット殿!!それは言わない約束では!!」

「あははー……」


 確かにその姿は想像するだけで微笑ましい。微笑ましいが、情報収集のために躊躇なく子供の輪に飛び込むランスロットは肝が据わっているのか、果たして単なるおバカさんなのか……。

 それから、ケイー。顔は笑ってるけど、ジェラシー漏れてるよー。

 必要以上に、にこにこしているケイにも佐和は呆れた。馬鹿にされたと思ったらしいイウェインがケイに突っ掛かる。


「貴様!何だ!馬鹿にしているのか!?」

「いやいや、ランスロットの言う通り、微笑ましいなぁーっと」

「嘘をつけ!」

「お前ら……ピクニックじゃないんだぞ。気を引き締めろ」

「……申し訳ございません」

「へいへーい」


 アーサーが溜め息混じりに諌めると、イウェインはしゅんと落ち込み、ケイはいつも通りへらへらと笑っている。その様子にはアーサーも呆れ返るしかない。

 和やかな雰囲気の中、アーサーの横にいたマーリンだけが突然、何かを感じたように周囲を素早く見渡した。


「……アーサー、霧が濃くなってないか?」


 マーリンの言う通り、進めば進むほど霧がどんどん濃くなっている。森に入った時は薄かった霧が今は辛うじて皆の背中が見えるぐらいまで濃くなってきている事に佐和もようやく気づいた。

 いつの間にこんなに霧深くなってたの……?ぜんぜん気がつかなかった。


「これ、帰り道もわからなくなっちまわねぇか?」

「けど、もしこの霧が呪いの城と同じ魔術による物なら晴れる日を待つのは無理かもなー」

「ケイの言う通りだな。進もう。いいか、決して離れるなよ」


 アーサーの言葉に頷き、一歩踏み出したその瞬間、


 佐和の視界から皆の背姿が消えた。


「……え?」


 い……言った側から!?


「ちょっと……!待ってください!」


 慌てて追いかけた佐和は空気の塊とぶつかった。

 思わず目を瞑り、腕で顔を覆う。

 何これ、すごい風圧……!!

 まるで空気の壁だ。その壁を一歩踏みしめて突き抜けた次の瞬間、


 佐和の視界が開けた。




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