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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 ニワトコおばさん
237/398

page.236

       ***


 わかったのは王国統一以前は、ここは小さな領地であった事。

 その領地を治めていたのは両親を病で亡くした若い騎士で、弟がいたという事。

 それから大戦に参加し勝利したが、王国統一後、一族皆行方知れずとなり、城を中心にこの霧が発生した。

 村人は城には近寄る事すらできず、やがて呪われた城として恐れ、近寄らなくなった。


「俺たちが調べられたのは、これぐらいだな。他はどうだ?」


 再度村の外に集合したアーサーはまず自分が村人から聞いた事を皆に言って聞かせた。

 アーサーに話を振られ、次にケイが手を挙げた。


「俺とガウェインが聞いた話もほとんど同じだなー。付け足すとしたら、その騎士兄弟には妹姫が二人いたらしいけど、姫君達も含めて全員行方不明なんだそうだ。村人はてっきり領地整理で別の場所に移されたと思ってたらしい。実際、ここは今はペンドラゴン家の領地だし」

「前の領主が誰か、わからないのか?」


 マーリンの問いかけにアーサーがむっとした。


「俺が産まれた前後の話だぞ!知るわけないだろうが!第一、統一前のこの大陸がいくつの小国に別れていたのか、正確に知る者もいないぐらいなんだからな!多すぎて!」


 行方不明になった若き領主とその兄弟。

 その失踪と同時に始まった原因不明の霧。

 村人は入ることのできなかった結界の城。

 謎は深まるばかりだ。


「後は霧の影響で狩りも耕作も難しいのが、この村が貧しい理由のようだ。このような苦難に晒されていた村があることに気づけなかったとは……」

「しゃーねーって!大事なのはこっからだろ!ほら!」


 ガウェインがばちんと音が弾ける勢いでアーサーの背中を叩いた。その勢いにアーサーがよろけながら苦笑する。


「そうだな……イウェイン、ランスロット。お前らはどうだ?」


 アーサーに問いかけられたイウェインの肩が跳ね上がり、目が泳いだ。


「で、殿下やケイの報告以上に付け加える物は何も……」

「え?イウェイン卿、あれは報告しないんですか?」


 あれって?

 ランスロットとイウェイン以外の全員が首を傾げる中、イウェインがランスロットに真っ赤な顔で詰め寄った。


「あ、あんな信憑性の低いお話、殿下に報告できる訳が無いだろう!」

「それを判断されるのは、殿下では?」

「し、しかし……」

「イウェイン、何でもいい。言ってみてくれ」


 まごついているイウェインにアーサーはリーダーとして、芯の通った声で話しかけた。

 その姿に慌てふためいていたイウェインが、動きを止める。


「些細な事でも、ちょっとした疑問点でも構わない。くだらない意見など無い。例え、その提案内容自体が決定打とならずとも、誰かの思考のきっかけになる可能性は充分にある。言ってみてくれ」


 イウェインが悩んだのはほんの一瞬で、アーサーのその言葉を聞き、やがて上目遣いでぽつぽつと話し出した。


「じ……実はその……単なる噂なのですが、湖を取り囲む森のどこかにいる『ニワトコおばさん』なる老婆なら、城の呪いの解き方を知っているかもしれないと」

「なっ……!」


 一同が同時に驚愕した。単なる噂どころでは無い。確信に触れるかもしれない情報だ。


「何故言い淀んだ?イウェイン」

「その……噂の出所が…………こ……子供でして……」


 なるほど。

 そりゃ、イウェインも言いづらいよねー。

 アーサーもまさかの情報提供者に面食らっている。


「何故子供になんて話を聞いたんだ?冗談の可能性の方が高いだろう」

「そうなのですが……」

「僕がイウェイン卿に提案したんです」


 ランスロットがすかさず手を挙げた。


「子供の方が魔法に敏感なんです。魔術師でなくとも、妖精を見たり、異変を感じ取ったりする事ができる子というのは、存外います。そこで子供達に話を聞いてみましょうと、イウェイン卿に僕から提案しました」

「……大人に聞いて出てくる情報はケイ達や殿下達でも充分かと考え、別の手段を取る有益性があるかと……判断しまして。ランスロット殿の提案に乗りました」


 面倒を見ろと言われていたにも関わらず、ランスロットに好き放題させた後ろめたさでイウェインは俯いている。

 けれど、アーサーはそんなイウェインを非難しなかった。


「いや……確かに予想外ではあったが、柔軟な判断だ。実際、今はその噂にすがるぐらいしか手は無さそうだしな」


 アーサーとケイ達が調べた事だけでは、あの緑の騎士に挑むための糸口は見つからなかった。

 もしも噂話が本当なら、その『ニワトコのおばさん』なる人物なら、あの呪われた城をどうにかできるかもしれない。


「ランスロット、それで。子供達はどんな事を言っていたんだ?」

「湖の周囲を囲むこの森のどこかに『ニワトコおばさん』と呼ばれている老婆が住んでいるらしいです。ただ、森も深い霧に覆われていて、会った事のある子供は少数でした。その老婆はかなりの物知りで、時には煎じ薬の作り方や、おとぎ話を聞かせてくれるそうなのですが、その中にあの城に関する話があったと」

「ただ、その話を聞いた子供は肝心な部分を忘れてしまっていたので、老婆に聞かないと詳しい話はわからないようです」


 ランスロットの話に、イウェインが付け足す。話を聞いていたアーサーは腕を組んで考え込んだ。


「どうするんだ?アーサー」

「……他に手がかりは今のところ何も無い。当たってみるか」


 マーリンの問いかけに答えたアーサーの決断に全員頷いた。



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