表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 ニワトコおばさん
236/398

page.235

       ***



 騒ぎはあっという間に広まり、近くにいた村人が皆、おじさんの家に集まった。アーサーを取り囲むようにして輪ができている。


「落ち着いてくれ……私はアルビオン王国王子アーサー・ペンドラゴンだ。この度、王都に呪われた城の話が届き、私が直々に視察に参った。皆、忙しいとは思うが、どうかご助力をお願いしたい」

「ほ、本物のアーサー殿下……!」

「こんな近くでお会いできるなんて……!」


 おおう、やっぱアーサーって人気あるんだなー。

 ウーサーに対して反抗心を持っている人はよく見かける。けれど、その息子であるアーサーに悪い感情を持っている人はあまり見かけない。


「ウーサーの悪口っていっぱい聞くけど、アーサーの悪口ってあんまり聞かないよね。何でなんだろ?」

「ウーサーの悪評はカーマーゼンでもよく聞こえてきたけど、アーサーの話は何も聞かなかった。初めて噂になったのが、この前の大戦の事だけだから良い印象しかないのかも」

「なるほどー」


 佐和とマーリンは輪から少し離れたところでアーサーを見守っている。そのアーサーが、村人に取り囲まれている中から佐和をこっそり睨みつけてきた。

 おおう、やっぱ怒っていらっしゃるー。

 良い機会だ。たまには自分でできる事は自分でしなさいという親心のような物で佐和は目を反らした。

 ……嘘です。ちょっとした意趣返しです、はい。

 その様子を見て、マーリンがまた笑いを堪えている。


「マーリン……笑いすぎだって」

「いや……だって……やっぱ、サワはすごい。うん」

「そんな事ないって……単に、ちょっとは自分でやれって思っただけだし」

「すごくいいと思う」


 笑顔のマーリンに顔を覗きこまれて、佐和の心臓が飛び跳ねた。きらきらとした表情に見惚れそうになる。

 あ……危ない……!破壊力高い!直視しちゃ駄目なやつだ!!

 マーリンから目を逸らすと、村人の輪の中にいるアーサーと目が合う。どうやらようやく諦めが着いたのか、アーサーは一度溜息を小さくついてから、完全に王子としての態度で村人を見渡した。


「まず、あの城について何か知っている者はいるか?どんな些細な事でも良い」

「呪われた城に関して、ですか……?」


 村人が互いに顔を見合わせる。誰が答えるか戸惑っているようだ。


「そもそもあの城が誰の物だったか知っている者はいるか?」

「あの城は……アルビオン王国統一以前、この土地を治めていた貴族の物です」


 集まった村人の中で最も年齢の高い老人が一歩前に進み出た。「村長」と周りの村人が呼んでいるのが聞こえる。


「この土地を治めていた一族の領主と奥様が同時に亡くなられてしまって……それから若くして長男様が後を継ぎました。とても若いご領主でしたが、思いやりに溢れた方で、慎ましやかですが、平穏な暮らしが続いていました。しかし……アルビオン王国統一以前の大戦に騎士として出かけて行かれて……」

「戻らなかったのか……?」

「いえ、あの方はご無事に帰っていらっしゃいました。その間は弟君が領地を治め、何の問題も無く事が終わったように見えました」


 帰って来たんかい。

 脱力してツッコミたいが、「終わったように見えた」という村長の口振りからしてここまでは前置きのはずだ。

 村長の話は静かに本題へと進んでいく。


「けれど、しばらくして突然、行方不明になってしまわれたのです。村の者には王国統一の暁には領地の整理があると伝えられていましたし……その影響で別に居城を移したのかと……寂しくはありましたが、さして気には止めていませんでした。しかし、それから城を中心としてこの霧が出るようになってしまって……」

「それでどうしたのだ?」

「さすがに一日も晴れぬ霧などおかしいと、村の男達で城に行ってみたのですが……入る事すら叶わず……」

「入れなかった……?」


 それはおかしい。佐和達があの城に行った時、確かに鍵は開いていた。


「鍵がかかっていたのか?」

「いえ……桟橋を進んでいると、湖の畔に戻ってしまうのです。まるで霧に阻まれるように。ですから現在あの城に何者が住んでいるのか、それどころか人がいるのかどうかも、私達にはわからないのです」


 老人の話にアーサーが聞き入っていることを確認してから佐和は横のマーリンに小声で話しかけた。


「マーリン……」

「やっぱり、結界の魔術だと思う」

「マーリンでも解けないの?」

「うん。あの共感魔術は……もう呪いと言ってもいいぐらい複雑に色々な縁を結んで創り上げられてた。その繋がりの解き方がわからない限りどうしようもできないし、逆に手順通りに縁を外して行けば、魔術師じゃなくても結界を破れるかもしれない」

「はぁー……」


 どうやら今回もややこしい事になりそうだ。

 つまりこっそりマーリンが結界を解いてはい、お終いとはできない。アーサー達にマーリンの正体を隠しながら魔術を解かせなければならない。

 想像するだけで気が遠くなりそう……。


「でも、あの城に結界が複雑に張られてる事は確かだから、とにかくまずは何が繋がってるのか情報を集めないと……」


 そう言ったマーリンは村人に囲まれているアーサーに目を戻した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ