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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 ガウェインと緑の騎士
233/398

page.232

       ***



 ガウェインは焚き火から少し離れた木陰で横になっている。話し声はあまり聞こえないぐらいの距離。

 それなのにガウェインが立ち去ってからも、誰も口を開かなかった。

 ただ、火の爆ぜる音だけが六人の間で瞬く。


「……アーサー、どうする?」


 最初に口を開いたのはケイだった。ケイの問いかけに全員微かに顔を上げる。


「……無論、このままにはできない」


 アーサーは手短な木の枝を取り、火をつつきながら考えをまとめている。


「あの騎士がゴルロイスの名に反応したのは確かだ。どうにかして……突き止めなければ……」

「けど、無策で行けば今日の二の舞だ。不思議だけど、あの城じゃ全く身体に力が入らなかった。あれじゃ、戦いにすらならない。それにもし……本当にあの騎士が、ガウェインが以前倒した緑の騎士と同一人物なら、不死身って可能性もある。信じたくないけどな」

「魔術とは生死の理すら曲げてしまうのか……」


 イウェインの微かな呟きにマーリンが口を開きかけた。けれど、何も言えず結局は下を向く。

 ここで魔術の事話しちゃうと、どうしてそんなに詳しいんだ?ってなっちゃうもんね……。マーリンってあんまり嘘が上手じゃないし。

 行き詰まった空気の中、普段と変わらない穏やかな声を発したのは、意外にもランスロットだった。


「殿下、どのようなものも死からは逃れられません。これはこの世の真理です。僕もよく母から聞かされています。例え、人であれ、魔術師であれ、動物であれ、植物であれ、妖精であれ、生と死は等しいと」

「……しかし、奴がキャメロットに侵入した緑の騎士と同一人物かどうかは置いておいても、イウェインの攻撃が効かなかったことは事実だ」

「何かからくりがあるのだと思います」

「からくり?」

「はい。恐らく何らかの魔術かと」


 ランスロットの言葉にアーサーが眉を潜めた。


「…………また、魔術か……」


 アーサー……。

 彼は魔術師を憎んでいた。魔術師の手助けで生まれ、忌まわしき子どもとして王宮でつまはじきに会い、魔術師を全ての元凶と決めつけ、殺す事に躊躇を全く感じていなかった。

 けれど、バリンの事件があって、マーリンと友情を育んで、少しずつ、少しずつだけれど、それが良い方向に向かって行っていると思った矢先に、こんな……。

 この前の闘技大会でネントレスに改めて自分の生まれた経緯を突きつけられた事もあるのかもしれない。アーサーの顔が歪む。

 ……平気そうに見えたのは、表だけだったのかも……。

 本当はネントレスの言葉はアーサーの胸に深く重く、圧し掛かっているのかもしれない。

 自分だけではない。大切な仲間もそのせいで傷ついていると思えば、尚更。


「魔術だったとして、どんな魔術なのかわからなければ、対抗の仕様がありませんね……」

「そもそも、もしゴルロイスやモルガンと本当にあの騎士に関係があって、奴らがかけた魔術なら断ち切りようが無いな。魔術はかけた魔術師を殺せば止められる。だけど、そもそも俺たちは奴らを探してるんだから」


 アーサーに優しくイウェインが声をかけ、ケイが付け足す。一方で佐和の横にいるマーリンが今にも何か言いたげにもぞもぞしているのが横目に見えた。その仕草から佐和はマーリンをこっそり見つめた。

 多分、マーリンにはこの現状を打破する提案があるんだ……。

 でも、言い出せない。

 今はまだ……魔術師だとアーサー達にばれるわけにはいかない……だからきっと言えない。


 なら。


 サワは会話の最中に頭の中で纏めた段取りを再確認してから、おそるおそる手を挙げた。


「あの、アーサー……」

「何だ、サワ。珍しいな。何か案でもあるのか?」


 落ち込んで考え込んでいるが、アーサーの機嫌は悪くは無い。

 聞く態勢、雰囲気。これなら大丈夫だろう。


「私じゃなくて、マーリンなら案があるかもしれません」


 佐和の言葉にマーリンの目が見開いた。彼が怪しまれる行動を取ってしまう前に、話を畳み掛ける。


「実は、アーサーがモルガンの魔術の剣で呪いの傷を負った時、ボードウィン卿から魔術に関してマーリンが少し教えてもらってたみたいなので。何かヒントになりそうな事とか、聞いてないかなーと」


 佐和に話を振られたマーリンの目の色が変わった。

 意図はしっかりと伝わったようだ。


「そうなのか?……どうだ?マーリン、何か参考になりそうな話は覚えているか?」


 アーサーの問いかけにマーリンは慎重に言葉を選んでいる。


「こういう結界とか呪いの魔術は魔術師本人の命を奪っても、収まらない……らしい。だから、モルガンやゴルロイスを探さなくても、あの騎士の謎を解く事はできる。あの城の結界は緑の騎士を不死身に、俺たちから力を奪うものだった。それを壊すためには結界を解く方法を探さないと」

「解くのは魔術師でなくともできると?」

「それは……わからないけど、可能性はある」


 マーリンの怪しい語尾にアーサーは気づかなかったようだ。腕を組んで考えこんでいる。


「なら、とりあえずあの城について調べてみるっていうのはどうだ?」


 ケイの提案に全員顔を挙げた。


「あそこについて、というかあの緑の騎士に関して何もわからないままじゃ、話の進めようも無いだろー」

「そうだな。調べてみれば、何かしらの糸口が掴めるかもしれない。殿下、いかがいたしますか?」

「……ケイやイウェインの言う通りだな」


 考こんでいたアーサーは顔をあげ、端から順に全員の顔を見つめた。


「……まずはあの城と呪いに関して調べてみよう。謁見に来ていた男が住む村が付近にあるはずだ。明日(あす)はそこへ向かうぞ」


 皆がアーサーの提案に頷く。重苦しい空気はもう感じなかった。

 良かった……うまい流れになって……。

 決意を新たにする騎士と従者の横で、佐和はこっそり胸を撫で下ろした。



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