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「ガウェイン!?」
一体どうしちゃったの!?
アーサーの騎士の中で誰よりも勇敢な彼が、目の前の敵に戦意を喪失している。
それどころか全身から力が抜け落ち、両膝を着いたまま上を見上げて呆けている状態だ。あの緑の騎士を見てすらいない。
イウェインに退路の確保を任された佐和は、扉から遠くのガウェインを見て驚いた。
「ガウェイン!!」
アーサーの声すらガウェインには届いていない。
ただ彼は揺れる瞳でホール上階の渡り廊下を見上げている。
「何で……何でいるんだ……そんなはず無い……だって、お前は……」
誰か……いる?
ガウェインの呟いた言葉を不思議に思ってガウェインの視線を辿るが、誰もいない。
彼は虚空に向かって怯えている。
イウェインと斬り合っていた緑の騎士が動かないガウェインに気付き、ターゲットを変えた。イウェインに背を向け、悠々とガウェインに近づいて行く。
「ガウェイン殿!そちらに敵が!!」
「ガウェイン!!逃げろ!聞こえないのか!」
イウェインとアーサーの叫び声に、ようやくガウェインが近付いて来る騎士を見上げた。
しかし、ガウェインの瞳がより一層揺れる。
「どうして……お前は、お前も……俺が……」
「ガウェイン!くそっ!」
「ガウェイン殿!」
イウェインが駆けつけ、緑の騎士の背後から的確に鎧の隙間を突いた。膝や足の付け根、神速の剣筋が何度も緑の騎士の足を重点的に攻撃する。
充分な手数だ。立ってはいられまい―――普通の人間なら。
しかしと期待とは裏腹に、騎士は全く痛みを感じていないようだった。イウェインに注意は逸らされたが、動きは全く鈍っていない。
「手ごたえはあった……効いていないのか!?」
「イウェイン!そのまま騎士の注意を惹き付けろ!ランスロット、ケイ!ガウェインを!」
「わかった!」
「はい!」
アーサーの判断で二人が騎士を避けてガウェインに駆け寄った。身体に力が全く入っていないガウェインを二人がかりで肩を貸し、立ち上がらせる。その間もガウェインは虚ろな目で何か呟いている。
「何で……」
「しっかりしろ!ガウェイン!」
「退くぞ!」
「こっちです!!マーリンいける!?」
「何とか……!」
佐和は懸命に五人に手を振った。彼らが来たらすぐに扉を閉められるようにマーリンと両扉に手をかける。
最後尾のイウェインが、追いかけて来る緑の騎士に高速の突きを繰り出した。その斬撃は足元に集中している。イウェインの攻撃は騎士ではなく、城の床の一部に穴を穿った。
そのへこみに緑の騎士が足を取られ、派手な金属音とともに転んだ隙にイウェインが全力で扉に向かって駆け出して来る。
「イウェイン!速く!」
「閉めてくれ!サワ!!」
滑り込んで来たイウェインを確認し、緑の騎士が起き上がる前に佐和とマーリンは力を振り絞って扉を閉めた。
「行くぞ!!」
アーサーの掛け声で全員、長い長い桟橋を急ぎ足で引き返した。