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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 ガウェインと緑の騎士
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page.228

       ***



「くそ、身体が思うように動かん!!」

「殿下!!」


 脚がもつれ、回避し損ねそうになった所、間一髪ランスロットの剣が横からアーサー目掛けて振り下ろされていた斧を弾いた。緑の騎士はすぐに距離を取り、反撃を受けないように距離を開ける。

 闘い慣れている……!

 アーサーは横に駆けつけたランスロットの様子を横目で観察した。ランスロットは緑の騎士に油断なく剣の切っ先を向けている。


「助かった、ランスロット。……お前、俺よりは辛くなさそうだな……」

「はい、恐らく殿下ほどは……これは魔術の(たぐい)の物かと思われます。所謂(いわゆる)結界を張られていたようです。僕は育ちのおかげで多少耐性がありますから……」


 ランスロットの育ちの話が本当なら、確かこいつは湖の妖精の結界の中で暮らしていたと言っていた。その恩恵で魔術の影響を受けにくく、多少の耐性があるらしい。

 半信半疑だったが、どうやらこいつの育ちの話は事実のようだな……。

 しかし、今はそんな事に気を取られている場合ではない。


「だが……このままでは……」


 そのランスロットすらさっきの一撃でかなりの体力を消耗してしまっている。反対側にいるケイも辛そうだ。

 どうする?

 このまま戦えば確実に敗れる。しかし、呪の城の噂は本当だった。どう見てもあの緑の騎士は常人では無い。


「殿下……!」

「イウェイン!?」


 悩んでいたアーサーに駆け寄って来たのはイウェインだ。その足取りはいつも通り素早く、アーサーと緑の騎士の間に割って入り、アーサーを背に庇う。


「退路は!?」

「マーリン殿とサワに任せました!」


 イウェインが剣を抜き、騎士と向かい合う。その背はいつもと何ら変わらず凛々しい。


「イウェイン……お前、苦しくないのか……?」

「はい。多少、空気が薄いような気もしますが、殿下達ほどでは……」


 どうやらランスロットよりもさらにイウェインは影響を受けていないようだ。実際、彼女はいつものように真っ直ぐ立ち、敵に剣を向ける事ができている。

 だが、そうは言っても、相手の気迫はそれ以上だ。

 アーサーの戦士としての感が、このまま戦闘を続行しても、確実に敗北する事を告げている。

 しかし……このまま手ぶらで引き返すわけにはいかない。

 せめて、この呪われた城とゴルロイス一味に関連性があるのかだけでも、確かめなければ……!

 アーサーは泥のように重たい身体に力を込め、緑の騎士に向かって叫んだ。


「……おい、貴様!ゴルロイスという名を知っているか!?」


 『ゴルロイス』の名に騎士の肩が微かに反応したのをアーサーは見逃さなかった。

 まさか、単なる噂話が当たりとは……!!

 それならば納得がいく。この忌々しい魔術も恐らくあの魔女―――モルガンの仕業に違いない。

 確信を得たアーサーは身体を奮い立たせ、騎士に向かい合おうとした。

 しかし、アーサーの言葉を聞いた緑の騎士の様子がおかしくなり始めた。突然、頭を抱え、苦しそうに呻き始める。緑の騎士が苦しむたびに鎧が重苦しい金属音が響く。


「……いす…………ね…………げろ……」

「一体、今度は何だ!?」

「ゴル……ロ……イ……す……。ごるろ……イス……!うおおおおお!!!」


 単なる叫び声。

 そのはずなのに、立っていられなくなるほどの衝撃派がアーサー達を襲う。

 空気が震撼する。

 これほどの圧倒的な迫力を持った敵とは未だかつて出会った事が無い……。

 見れば、イウェインも、ランスロットも膝を着いて懸命に風に抵抗している。


「本当に人間なのか……!?」

「アーサー、一旦退こう」


 緑の騎士の荒れ狂う様子を見て、ケイがアーサーの側に駆け寄って来た。


「しかし、騎士が敵に背を向けるなど……しかも奴はゴルロイスの名に反応した!確かめなければ……」

「アーサー」


 例え敗色が濃厚であったとしても、騎士が敵に背を向ける事は許されない。

 それにここに視察に送り込んだウーサーの意に添うためにも、手ぶらでは帰れない。

 判断を迷うアーサーにケイは顔を近付けた。その目がいつになく真剣にアーサーを射抜く。

 だが、鬼気迫る様子とは裏腹に、ケイの声は淡々としていた。


「勇猛と蛮勇は違う。撤退と敗北もだ。本当に大切な事は何か考えろ。そのために、今ここで全員が死ぬ必要と価値があるなら、反対しない」


 荒れ狂っていた緑の騎士が襲いかかってくる。その攻撃をイウェインが何とか防いでくれている状態を、アーサーはもう一度見やり、考えを巡らす。

 あいつはゴルロイスの名に反応した。ここに来るまで、可能性は限りなく低いと思っていたが、あの騎士は確実にゴルロイスを知っている。

 それならばここで…………全員の命を落とさせるわけにはいかない。

 万が一、ここで全員命を落とせば、ゴルロイス一味の手がかりを掴めなくなるだけでは無い。キャメロットにこの事実を伝える事すらできなくなる。

 そして、ケイがこう進言してくる理由は恐らくもう一つある。 アーサーもその可能性には頭の片隅で気付いていた。

 …………もし、もしも、こいつが俺やケイの知っているあの『緑の騎士』と同一人物だとしたら……。

 アーサーは歯噛みした。


「……くそっ!一度退いて立て直す!イウェイン!ランスロット!援護を頼む!」

「はい!」

「畏まりました!」


 最も影響を受けていない二人に背後を任せ、アーサーは撤退のために両足に力を込め直した。かろうじてまだ立ち上がる力は残っている。


「ケイ、動けるか?」

「何とか」

「ガウェインは……!」


 その瞬間、アーサーの目に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。

 誰よりも勇敢な騎士が膝を着き、城の上階を虚ろな目で見ている。その手から剣がすべり落ちた。


「嘘だろ……」


 余りにも弱々しいガウェインの言葉にアーサーはいとこの異常を感じ取った。




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