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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 呪われた城と騎士
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page.225

       ***



 翌日、煙のような霧雨は止み、キャメロットの石畳の広場のあちこちに水溜まりができていた。


「ぎゃ!」


 転ぶ……!!

 雨で濡れたタイルに滑り、危うく転びそうになった瞬間、咄嗟に誰かが後ろから支えてくれた。

 振り替えると、腕を持って支えてくれているのはランスロットだ。幼い見た目に反して、しっかり佐和の身体を支えて元に戻してくれる。


「大丈夫ですか?」

「うん……ありがと、ランスロット」

「お役に立てて光栄です」


 すごいなー、全然力持ちには見えないんだけど。細マッチョってやつかな。

 爽やかな笑顔のランスロットを見てみたら、その向こうで自分とアーサーの馬の手綱を握ったマーリンが殺気を放っている事にに気付き、佐和は小さく悲鳴をあげた。

 悔しくて、悔しくて、堪らないらしい。

 負のオーラが出てる……!


「……サワ、次転ぶなら俺の前で」

「いや!転ぶ場所選べてたら、転ばないから!」

「お前ら、何を遊んでいる!!」


 アーサーの怒鳴り声にサワは慌てて背筋を伸ばした。マーリンとランスロットはいつも通りの表情のままだ。

 その様子を横目で見て、呆れてしまう。

 この二人の鉄のメンタル、少しは見習わないとな……。


「出発するぞ!」


 城門前に集結したアーサーの騎士、ケイ、ガウェイン、イウェインは既に支度を終え、アーサーの横に並んでいる。佐和達も馬を連れて合流した。


「初めての公務……お役に立てるよう頑張ります!殿下」

「不安を煽るような事を言うな……」


 それは佐和もアーサーと同意見だ。

 ランスロットの張り切りが良い方向に働くとは思えない。


「何故ですかー?」

「イウェイン」

「はい?」


 ランスロットの笑顔の不満を無視し、アーサーはイウェインを呼びつけた。


「道中こいつの面倒をお前に任す。騎士としてこいつは余りに未熟だ。……剣の腕だけは確かだが、騎士道を履き違えている部分が多すぎる。見張っておけ」

「はぁ……承知いたしました」

「何でイウェインなんだよ!俺が先輩としてがつーんと指導してやるぞー!」


 不思議がるイウェインの反対側でガウェインが唇を尖らせた。アーサーがその言葉を聞いて、ガウェインを睨みつける。


「馬鹿と阿呆を組み合わせても意味無いだろうが!」


 あはは……確かに。

 佐和も苦笑し、アーサー達に続いて自分の馬にまたがった。



       ***



 道中は何事もなく、七人の大所帯になった佐和達は、例の呪われた城がある湖の近くまで来る事ができた。


「少しずつだけど霧が出てきたなー」

「どうやら謁見に来た村人の話は本当らしいな」


 ケイとアーサーの言う通り。少しずつだが、進めば進むほど霧が濃くなっている気がする。佐和はこっそり馬の速度を緩め、最後尾のマーリンに馬を並べた。


「マーリン……」

「……うん……嫌な感じだ」


 佐和にはただの霧にしか見えないが、どうやら噂は当たりだったようだ。明らかにマーリンの目が厳しく周囲を警戒している。

 マーリンが嫌だって感じるってことは、やっぱりこれは―――魔術……。


「方向感覚が狂っちまいそうだぜ。こっちで合ってんのかよー?」

「合っていると思いますよ」


 ランスロットが進行方向に耳を澄ませている。


「僅かですが、水の気配がします。湖はこのまま真っ直ぐかと」

「よくわかるなー」


 素直に感心したケイにランスロットは照れ笑いを浮かべた。


「育った場所が場所ですから」


 どうやら湖で育ったというのは本当らしい。

 そもそもこんな力を見せつけられなくても、不思議と佐和はランスロットが嘘をついているとは微塵も考えていなかった。

 彼は嘘を全く付けない人だ。だから、闘技大会の時もウーサーの前で素直に話し出してしまい、結果アーサーに叱られてしまったり、問題を起こしたりするのだけれど、彼の純真さは希有な物だとも思う。


「ランスロットの言う通りみたいだ。アーサー、前」


 それに最初に気づいたのはマーリンだった。

 やがて姿を佐和達に見せつけて来たのは、深い霧に覆われた湖と城の影だ。

 大きい……。

 カメリアド城にあった遊覧用の湖とは比べ物にならない。以前旅行で行ったことのある箱根の芦ノ湖よりは確実に大きい湖だ。

 その中央に大きな城の影が霧の向こうに見え隠れしている。全容が見えないせいか。不気味でありながら、どこか神秘的な雰囲気を感じる。

 湖畔までたどり着いた佐和達は、そのあやふやな城の輪郭を静かに見上げていた。

 ……蜃気楼とかじゃないよね……すごく不思議なお城……。


「……馬はここに繋いで行くぞ。どうやら城に渡る方法はたった一つのようだからな」


 アーサーが見つめる先に、木造の桟橋が城に向かってずっと続いていた。







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