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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第九章 呪われた城と騎士
225/398

page.224

       ***



「ケイにはもう伝えたから、後はイウェインとガウェインだね」

「うん」


 偶々廊下を歩いていたケイにはすぐにアーサーの伝言を伝えられた。次はイウェインの私室だ。

 まだイウェインの邸宅は城下町に建設中なので、王宮の一室に貸し与えられているイウェイン用の客室の扉を佐和はノックした。


「はい」

「佐和とマーリンです」


 扉を開けてくれたのはイウェインの侍女リュネットだ。佐和達を笑顔で出迎えてくれた彼女はすぐに扉の脇に退いた。


「姫様、サワ殿とマーリン殿です」

「サワ、マーリン殿。どうかしたのか?」

「イウェイン、アーサーから伝言があって」


 そう言いながらマーリンが部屋の中央にいたイウェインに近寄って行く。アーサーからの伝言をマーリンがイウェインに伝えている内に、佐和はこっそりリュネットに近付いた。


「最近、どう?」


 小声での佐和の問いかけの意味を的確に理解したリュネットは、顔も動かさずそのままこっそり答えた。


「全くなくなりました」

「やっぱり……」


 つい最近までリュネットは嫌がらせを受けていた。

 相手は―――グィネヴィアの侍女達だ。

 アーサーにかまってもらえない主人を哀れに思った侍女達が間違った正義感に駆られ、自分の主人であるグィネヴィアよりもアーサーに構ってもらえているように見えるイウェイン―――の侍女のリュネットに嫌がらせをしていた。

 ランスロットがグィネヴィアの相手をするようになったからだな……。

 その現金さに呆れてしまう。

 今、グィネヴィアはランスロットに夢中だ。

 相変わらずアーサーは公務でグィネヴィアにほとんど会えていないし、面会禁止も解かれていない。

 だが、彼女はランスロットで満足し、嫌がらせなんてしている暇がなくなったに違いない。


「まぁ、こちらとしては在り難いです。仕事に集中できますから」

「あはは……お疲れ様……」

「サワ?リュネット?何かあったのか?」


 マーリンと話し終わったイウェインが近づいて来る。リュネットと二人、笑顔で誤魔化す。


「雑談だよー」

「はい、最近侍女の間での話題なんかをちょこっと」

「そうか。リュネット、明日から殿下と共に視察に出る事となった。旅支度を頼む」

「かしこまりました」


 イウェインは全く怪しまなかったようだ。リュネットがすぐにぱたぱたと部屋に戻っていく。それを見送った佐和は、イウェインに向き合った。


「大会は残念だったね、イウェイン」

「致し方あるまい。あの状況で続行は不可能だろう。いずれまた機会もあるだろうし、その時には誠心誠意努めるつもりだ」


 大会はネントレスの登場により混乱を極め、結局最終決戦イウェイン対ランスロットの対決は行われず、中止となった。

 初戦の方だけでも充分目立ってはいたが、イウェインだって最期までやりきりたかったに違いない。


「イウェイン、あとガウェインにだけ伝えてないんだ。部屋にいなくて。どこにいるかわかる?」


 マーリンの問いかけにイウェインは小首を傾げた。


「いや、私の元には来ていない。晴れているなら屋外で訓練に勤しんでいそうなものだが、この天気ではな……」


 朝から霧雨がキャメロットには降り続いている。

 さすがのガウェインもこの雨の中走り回ったりはしていないだろう。


「どこ行っちゃったんだろーねー」

「私も探すのを手伝おうか?」

「ううん、イウェインは自分の支度もあるでしょ。私とマーリンで探すよ。行こ、マーリン」

「うん、それじゃ」

「ああ、わかった。では、明日また」


 佐和とマーリンはイウェインに手を振って別れた。



       ***



「どっこにもいないねー……」

「うん、いない」


 王宮中を歩き回ったが、ガウェインの姿は見つけられなかった。広大なキャメロットのお城を歩きまわり、佐和の足は既にくたくただ。


「疲れたー」

「休む?」

「ううん、大丈夫。ありがと、マーリン」

「せめて、一度座るとか」

「平気だってー」

「じゃ、俺がおぶって……」

「マーリンいいってばー」

「なら、やっぱり抱きかかえる方が良い?」

「そこじゃないんだってば!!」


 相変わらずの天然さを発揮するマーリンに佐和は全力で突っ込んだ。

 言われたマーリンは少し不服そうに「アーサーはやったのに」と呟いている。

 どうやらゴーレム事件の時、アーサーが佐和をお姫様抱っこした事を未だに根に持っているようだ。

 よく考えたら、あそこらへんからマーリンの様子、何かおかしかったんだよね……。

 ってことは、あのお姫様抱っこしようとしたのも、アーサーにやられたのが悔しかったから……?

 佐和は熱くなる頬を一人で抑え込んだ。

 それって……私が好きで……嫉妬してたってことだよ……ね……?

 そう考えると何だか恥ずかしい。

 そして、今も。その感情はマーリンの中にくすぶっている。


「うん」

「肯定しないで!マーリン!こっちまで恥ずかしくなっちゃう……!」

「え?何の話?サワ」

「え?」


 いつの間にか立ち止まったマーリンが進行方向を指さしている。


「あれ、ガウェインじゃないかと思って」

「……」


 ああ……肯定の「うん」じゃなくて、「あそこに人いるんじゃね?」の「うん?」ですか!そうですか!早とちりしてすみませんねぇ!!ええ!なんせ彼氏いない歴イコール生きてきた年数の女ですから!!

 叫びだしたい衝動を堪え、佐和はマーリンの指さす方角に目をやった。

 確かにマーリンの言う通りの場所に、ガウェインが立っている。

 ここは王宮の外れも外れ。外に面した渡り廊下だ。その端っこ、ぎりぎり屋根のある所にガウェインが一人で立って、空き地を見ている。


「……何か、真剣にあそこ見てるけど……ただの空地だよね?」

「アーサーに聞いた限りじゃ、闘技大会の開催場所の一つらしい。二つあって、前回は別の空き地の方を使ったから」


 マーリンの返答を聞きながら、佐和はガウェインの背中を盗み見た。

 そんな空き地を何で見てるんだろ……?

 珍しくガウェインの背中がどこかちいさく見える。

 所在なさげで、今にも雨に消えてしまいそうな。

 変なの。

 ガウェインと雨なんて全く似合わないはずなのに。


「ガウェイン」


 マーリンの呼びかけに振り返ったガウェインは、声をかけたのが佐和達だとわかった途端、いつも通り破顔した。


「おう!マーリン!サワ!どっした!?何か用か?」

「アーサーからの伝言を伝えに」

「そっか、そっか。ごくろうさん!!」


 マーリンがガウェインに明日の事を伝える。話を聞いて頷いているガウェインの様子は普段と何も変わらない。

 さっき神妙な空気を感じたのは……私の勘違いだったのかな?


「おーい、サワー?どうしたー?ぼーっとして?」


 ガウェインが少し離れた所から佐和の視線の先で掌をひらひらと振った。我に返り、手を振って誤魔化す。


「ううん、何でもない。ガウェインこそ、こんな所で何やってたの?」

「あー……まぁ、昔の事とか思い出してたー」


 ガウェイン?

 やっぱりガウェインの言葉は歯切れが悪い。その空気をわざと壊すように、ガウェインは大袈裟にマーリンの肩を掴み、無理矢理歩き出した。


「行こーぜ!マーリン、俺の支度手伝ってくれよー!どうやっても鞄に荷物が入り切らねぇんだよー」

「畳まないで放り込むからだろ」


 ……ガウェイン?

 不思議に思いながらも、歩き出した二人の後ろに佐和もついていく。

 どこかガウェインの笑顔が無理をしているようで、少し気になった。






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