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会場中が息を飲む中、ネントレスの腹部を貫いたのは―――ランスロットだった。
ネントレスが、少しだけ背後の少年を振り返る。その顔に―――笑みを浮かべて。
「……済まない。助かる」
「あなたもまた、主君に忠誠を誓う誉れ高き騎士だったのですね……残念です」
ランスロットはネントレスの腹に刺した剣をそのままにして、彼の前に回り込み片膝をついた。
「何か他に僕にできる事はありますか?」
「……何も無いよ、若き騎士の卵。守るべき主君も家族もその戦で失くした。失う物は無い。最後に奪われそうだった誇りだけは、君のおかげで失わずに済みそうだ…………ありがとう…………」
ネントレスがその場に倒れた。どさっと地面に物が落ちた時の音だけが、やけに会場に響く。
誰もが予想だにしなかった結末に動けずにいる。
アーサーもウーサーを抑え込めようと上げていた腕から力を抜いた。ウーサーもその場に立ち尽くしていたが、やがて思い出したようにランスロットに近寄って行く。
「よくぞ逆賊を始末した。褒めて遣わす」
「…………」
ランスロットは答えない。ただもの悲しそうな笑顔をウーサーに向けると、自分の剣をネントレスから引き抜いた。
そのまま会場を後にする少年の背中に、誰もが釘付けになっていた。