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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 闇に説いて融ける
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残酷描写があります。ご注意ください。

       ***



『それ』はモルガンに生きるための(すべ)を授けた。

 その術とは、修道院では決して知る事の無かった世界の真実と残酷な現実。人の愚かさとそれを利用する知恵。そして―――数々の魔術の知識だった。

 まるで呼吸をするようにモルガンは魔術を操り、人心を操り、日々を生き延びた。

 その方法だけが、唯一モルガンの知る生き方だった。

 アルビオン王国が統一される以前、小国に分かれ各地で紛争が巻き起こり、外からは異民族と大国が侵攻を開始する。その情勢の隙間を縫うように、モルガンは魔術を使って生きていた。

 時には魔術で物を奪い、商売をし、国に協力し、その敵国に恩を売り、人を殺し。

 繰り返すが、それ以外、モルガンは生きる方法を知らなかった。

 今となってはなぜ生きていたのかもわからない。だが、死のうと思う理由も無かった。それだけの事だったのかもしれない。

 そんな日々の中、戦いは収束し、小国は一つとなりアルビオン王国が生まれた。

 しかし、モルガンの生き方は何も変わらない。そう思っていた。



 国王ウーサーが過ちを犯し、魔術師淘汰のお触れが出回るまで。



       ***



 自室に戻ったウルフィンは荒々しくベッドに横たわった。

 機嫌を伺うように様子を覗いてくる従者の視線すら鬱陶しくて追い払ってしまい、静まり返った部屋の中央で、一人、栄光の日々を思い返す。

 ウーサーと共に戦場を駆け抜けたあの日々。

 ウーサーの右腕は間違いなく自分だった。

 それが、ウルフィンにとって誇りだった。誰もが名誉だと褒め称えた。

 しかし、あの日をきっかけに自分の道はまるで転がる石のように転落した。


「私は、ウーサーの思う事をしただけだと言うのに……!責任を全て私になすりつけて、エクター、ボードウィンめ……!」


 自分に罪を着せ、本来自分が立つべきだった場所に居座っているあの二人が憎い。

 今回の大会に殿下の女騎士が出場することは事前の下調べで知っていた。だから自分も参加し、ウーサーの前で自身の有用性を示し、もう一度己の価値をあの男たちにもわからせてやるつもりだった。

 それなのに。

 完全に暗くなった部屋で寝返りをうとうとして、斬りつけられた足が痛んだ。

 ボードウィンめ……適当な治療をしたのではないだろうな……。

 恨みをこめて天井を睨みつけたその視界に突然、鉄のヘルムの男が飛び込んできた。


「……!」


 叫び声をあげ、ベッドから逃げようとしたが、怪我をしている足は動かず、ウルフィンはあっさりと男に馬乗りになられ、身動きが取れないように押さえつけられた。

 その鉄仮面には見覚えがある。今回、自分の栄誉ある道を遮った一人。


「お久しぶりね、ウルフィン卿」


 動かない身体で、視線だけ横にずらすと、ベッド脇に見知らぬ女が立っていた。

 漆黒の闇に融けるようなローブに長い髪。血のように赤い瞳。

 噂に聞いていた魔女が、そこに立っていた。


「衛兵!侵入者だ!!」

「無駄よ、誰も来ない」


 できる限りの大声で叫んだにも関わらず、兵士どころか自分の従者すら出て来る気配がない。その事にウルフィンはパニックに陥った。

 剣は従者に預けたままだ。丸腰の自分に対してネントレスは腰に剣をしっかりとさしている。


「ウルフィン卿。私は、そなたに聞きたい事があるの。素直に答えれば、命だけは助けてあげるわ」

「誰が貴様のような魔術師などに!」


 その瞬間、ウルフィンの右耳をネントレスが斬り落とした。激しい激痛に叫び声をあげる。


「機会は後三回までよ。耳と両目以外、削いだらさすがに死んでしまうでしょう?」


 魔女の冷笑にウルフィンは震えあがった。

 ……狂っているとしか思えない。


「私の事は覚えている?」


 ウルフィンは首を横に振った。

 こんな女、知るはずがない。


「……そう。なら、この者は?」


 モルガンのその言葉でネントレスが鉄のヘルムを取った。

 その下から現れた顔には、どこか見覚えがある気もする。しかし、はっきりとは思い出せない。


「やはり……覚えていないのね。もう、いいわ」

「た……助けてくれるのか……」


 安堵したウルフィンに馬乗りになっていたネントレスが腰から剣を抜いた。

 モルガンは、その様子をただ静観している。


「おい!止めろ!おい!聞こえないのか!止めさせろ!おい!俺は何も知らない!本当にわからないんだ!!」


 ウルフィンの言葉にモルガンが微笑んだ。


「あの時、アコーロンも私も、同じ事を言ったはずよ」


 アコーロン……!

 この魔女の正体に思い当たった瞬間、そこでウルフィンの意識は途絶えた。







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