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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 忍び寄る邂逅
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page.208

※下ネタがあります。ご注意ください。

直接描写などではありません。

      ***



 ランスロットを宴の席にこのまま戻すとまた騒ぎを起こしかねない。そう判断したアーサーは、ランスロットに言い含めるために私室でしばらくランスロットに話をつけることにした。付き添うのはマーリンだ。

 給仕が二人も消えるわけにはいかないということで、佐和はアーサーに宴の会場に戻るよう命じられてしまった。

 私も、もうちょっとランスロットの様子、見てたかったんだけどな……。

 あの本に書かれていたランスロットが、あのランスロットだというのが、どうにもいまいちピンと来ないのだ。

 ランスロットって私でも聞いた事ある……すごい騎士だよね?

 あんなド天然の人が、そんな騎士には見えないんだよなぁ……。

 確かに闘技大会の中で彼が見せた剣技は佐和から見てもとても綺麗で、無駄がなく、強そうに見えた。


 そしてもう一つ。


 間違いなく……グィネヴィアと目が合った時、私、嫌な予感がした……。

 あの時、会場でランスロットがグィネヴィアに微笑みかけた時、グィネヴィアの目が微かに揺れ、小さな何かが灯った気がした。

 まさしくそう……それは火種になりそうな。微かな熱情……。


 人気の無い廊下で考え事をしながら歩いていた佐和は、会場に戻る手前に誰かがいることに近付いてからようやく気がついた。

 あれは……グィネヴィア姫と……それから……確か、イウェインとは別のブロックの準決勝出場者の人……。

 確か名前は、ペリアス。

 元の世界の言葉で一言で言えば、チャラ男。くすんだ金髪、どこかナルシストな雰囲気を漂わせる傭兵で、軽そうな男というのが佐和の最初の印象だ。

 そのペリアスが、グィネヴィアを呼び止めて壁に追いつめている。


「あの……ペリアス様……そこを退()いてくださいませんか?」

「冷たいこと言わないでくださいよー?ねぇー?グィネヴィアひめー?」


 ……酔っぱらいか。

 ぺリアスの顔が赤い。どうやら宴の席で飲み過ぎたらしい。グィネヴィアに絡んでいる。


「その……近い……です……」

「照れちゃってー。かっわいいー」


 追いつめられているグィネヴィアは珍しく一人だ。救いを求めてあちこち彷徨わせていた視線が佐和を捉えた。

 その目に救いの意志が潤む。

 ……うわ……マジか……。

 ただでさえ関わり合いたくない相手に、さらに酔っぱらい。

 面倒くさい事この上無いが、こんな状態で、襲われかねない女性を見捨てられるほど佐和は腐っちゃいない。

 ……しょうがない。


「グィネヴィア姫、お待たせいたしました。参りましょう」


 佐和は二人に近づき、わざとグィネヴィアに声をかけた。ペリアスに声をかければ、余計な摩擦を生む可能性があるからだ。

 本能的に計算高いグィネヴィアなら、佐和の意図も読み取れるはず。


「え……ええ!行きましょう。それではペリアス様、失礼いたします」


 佐和の話しかけた隙を見計らって、グィネヴィアがぺリアスの包囲から抜け出す。

 そのまま近くの部屋に逃げ込んでしまえば、どうにかなるだろう。

 佐和もペリアスに一礼して、グィネヴィアの後に侍女のフリをして付いて行けばいい。

 そのまま歩きだそうとした瞬間、後ろから手首を乱暴に捕まれた。


「おーい、待てよー。姫さんとおしゃべりできる機会なんて、俺たち一般市民には無いんだぜー。もう少し融通きかせてくれよー」

「……私にそのような権利はございませんので、申し訳ございません」


 相手を刺激しないように佐和は笑みを浮かべながらも、申し訳ない思いを滲ませた声を作った。

 酒の入っている相手には、逆上する機会を与えるのが一番まずい。穏やかに乗り切るに限る。


「それでは失礼いたします」

「待てって!なー!」


 しつこい。

 佐和の後ろでグィネヴィアも困り果てている。

 どうやって振り切ろうかな……。

 大会の出場者は、大会開催中は客人扱いになる。つまり従者よりも立場が上だ。その状態で佐和が何か強く言うことはできない。

 一番いいのは……宴の席から話のわかる騎士が通りかかってくれるか、アーサーかランスロットが戻って来ることだ。

 ……マーリンだとこの場面だけを見て、逆上して無茶しかねない。


「いいだろー?少しくらい」

「それでしたら宴の席でお願いいたします。姫様は少々お色直しがございますので」

「硬いこと言うなってー」


 ダメだ。堂々巡りだ。

 会場から誰かが出てくる気配も、アーサー達が戻って来る気配も無い。

 酔っているはずなのに、ぺリアスの力は思ったよりも強い。無理矢理振りほどくのは無理そうだ。


「なー、ひーめー?」

「や、やめてくださいっ……!」


 ペリアスは佐和の腕を握ったまま、グィネヴィアに近づこうとした。その目は、完全に酔っぱらって理性を失っている。

 やばい……!

 女の直感がこれ以上焦らすのはまずいと言っている。佐和を抑え込んだまま、グィネヴィアに顔を近付けて行くぺリアスを見て、佐和は腹をくくった。


 こうなったら最終手段だ。


 一瞬、動きを止めて―――逃げる!!

 勿論、物的証拠が残らない方向で。


「本当にかわいいよねーひめさまー?俺なんかどうー?アーサーなんかより、いけてるとおもわなーい?」


 グィネヴィアに近寄ろうとしたぺリアスの前に佐和は割って入った。

 一瞬、ぺリアスは驚いたようだが、すぐに佐和に顔を近付ける。

 酒臭い。ちゃらい。きもい。うぜぇ。


「侍女ちゃんでもいいよー、俺とどう一晩?良くしたげるよー?」


 最早完全に酔いが回り、女性なら誰でもいいようだ。

 そののぼせ上がった顔に、佐和は思いっきり爆弾発言を投げつけた。


「穴開いてりゃ何でもいいならこんにゃくでも相手にしてろ、糞野郎」

「な!!」


 佐和の暴言にペリアスが呆気に取られている。その瞬間、佐和は思い切りペリアスの頭を空いていた右手で叩いた。隙を突かれたぺリアスがよろける。佐和を掴んでいた手も緩んだ。


「今のうちに!」

「はい!」


 すぐにグィネヴィアが近くの部屋に逃げ込む。佐和もそこに続こうとしたが、何と―――グィネヴィアは佐和が入る前に扉を締め鍵をかけた。


 は?


 はああああああ!!???

 おい!グィネヴィア!?ふざけんな!?マジかよ!?

 ドアノブをがちゃがちゃ回すが、びくともしない。

 焦る佐和の背をがっしりと掴んだ手に、佐和はおそるおそる振り向いた。


「じーじょちゃーん。きょうれつなパンチー、きいたよー?」


 ……オワタ。

 佐和の脳裏にその三文字と手を挙げた笑顔の顔文字が浮かぶ。

 佐和は曖昧な笑顔でごまかす方向にした。


「……顔に虫が、付いていたのもので……」

「ふーん?」

「それでは、私は仕事に戻りまーす……」

「させると思ってんの?」


 ですよね!!

 逃がしてくれるわけがない。

 今度はグィネヴィアではなく、佐和が壁に追いつめられる番だ。

 だが、ぺリアスに逆上している様子は無い。じろじろと至近距離から佐和の顔をのぞき込んでいるだけで、殴りかかってくる様子は無い事だけが救いだ。


「いいどきょう、してんじゃーん?」

「はは……あ、ありがとうございます……?」


 てっきり殴りかかってきたりするものかと身構えたが、ぺリアスは吹き出し、笑いを堪えながら佐和を見ているだけだ。


「……あの……」


 沈黙に耐えられなくなったのは、佐和の方だった。

 ひたすら佐和の顔を見て笑っていたぺリアスが顎に手を当て、一人で何か納得している。


「うん、うん。俺、けっこう、そういう度胸のある女の子、嫌いじゃないんだよねー」

「……は?」

「押すよりも敷かれたい、みたいな?」


 おまえの趣味思考なんか知るか!ぼけ!!

 どうやらターゲットがグィネヴィアから佐和に移ってしまったようだ。しかし、それならやりようはいくらでもある。

 適当に相手して、話を長引かせて、アーサー達が戻ってくるのを待てば……。


「ね?どう?俺とつきあわない?」

「私、彼氏いるので」

「嘘でしょ?」

「そんな嘘ついてどうするんですかー」

「そんな事言わないでさー」


 やばい……!

 口先だけはかろうじて動くが、やはり酔っぱらった男性にこんな至近距離で追いつめられているのは足がすくむ。

 さっきまで大丈夫だったのは、グィネヴィアを守らなければと気を張っていたからだ。

 一歩、間違えればいつ暴力を振るわれるかもわからない。

 振るってくれたら、私が悪くないって証拠になるけど……事件が起きてすぐにアーサーが来てくれればいいが、先に来たのがウーサーなら、侍女である佐和の旗色はかなり悪い。


「ね?このまま、部屋行こっか?」

「ちょ……!」


 ぺリアスが無理矢理佐和の腕を引いて連れて行こうとする。

 こうなったら―――最終必殺攻撃を食らわせるしか……。


「おい」


 佐和が蹴り上げ攻撃の狙いを定めたまさにその時、背後から声をかけてきたのはマーリンだった。




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