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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 忍び寄る邂逅
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page.207

      ***



 唐突で訳のわからないランスロットの発言に会場中が静まりかえった。全員の視線がランスロットに注がれる。


「な……なるほど、湖の近くの(やしき)で暮らしていたと」

「いえ、ですから僕は湖で暮らしていたのです。陛下、近くではありません」

「何を訳のわからぬ事を抜かしておる。湖の中で暮らしていたとでも言うのか」


 ウーサーの言葉にあちこちから品のない笑い声がさざめき会う。嘲笑っているその声達に苛立つ事も無く、ランスロットは目を輝かせた。


「さすがは国王陛下、まさにその通りです!僕は湖の中で育ちました!」


 会場中がその余りにも無垢な返答に絶句した。

 え?何、あれ?

 ガウェインが側にいれば「お前、頭大丈夫か?」と直接聞いてくれたかもしれないが、生憎今はいない。

 それにランスロットが嘘をついているようには見えない。

 ……本気で言っているとしか。


「な……何をふざけた事をぬかしておる!!それではまるで魔術師のようではないか!」


 ウーサーの怒声と『魔術師』という単語に、彼の騎士達に一斉に緊張が走った。だが、ランスロットが怯む様子は全くない。


「違います、陛下。僕は魔術師ではありませんし、僕の育ての親も魔術師ではありません」

「なら、なぜ湖で暮らしていたなどと嘘をつく!?」

「嘘ではありません。僕を育ててくれたのは妖精ですから」

「貴様、一体何を言って……!?」


 ランスロットの発言で会場は大混乱だ。

 だが、本人に悪いことをしている自覚は無い。ただ出自を明らかにしているだけのつもりのようだ。

 いや……確かに悪いことをしてるわけじゃないんだけど……!

 しかし、ランスロットの発言が事実かどうかはおいておいても、魔術師を恨むウーサーに目の前で、妖精に育てられたなんて言うのは、どう考えても得策ではない。

 案の定、ウーサーの顔が真っ赤に染まる。馬鹿にされたと思っているようだ。


「衛兵!こやつを……」


 ウーサーが控えていた兵士に命じるより早く、アーサーが宴のテーブルを飛び越え、ランスロットの背後に回り込み、ランスロットの両腕を捻り上げた。


「アーサー!?」

「父上、この者はどうやら既に大分酔いが回っているようです。私が処理します」

「殿下?僕は酔ってはいませ……」

「いいから、来い!!」

「い、いたたっ!痛いです、殿下」


 最後の言葉はランスロットに向けてこっそりだ。

 急いでウーサーに笑顔を取り繕ったアーサーが、そのままランスロットを無理矢理広間から連れ出す。

 その背中を参加者達は皆、ぽかんとして見ていた。


「サワ、俺達も」

「へ?あ、うん」


 マーリンに促されて、ようやく呆けていた佐和も慌ててアーサーを追いかけた。



       ***



 無理矢理ランスロットを小脇に抱えながら、アーサーがやって来たのは私室だ。佐和とマーリンも慌てて部屋に滑り込み、扉を閉める。


「わぁー、ここが殿下のお部屋なのですかー。素敵ですねー」

「そうじゃないだろうが!全く、お前は一体何を考えているんだ!?」

「殿下、どうしてお怒りなのでしょうか?何か気に障る事を僕はしでかしてしまったのでしょうか?そうだとするならば、誠に申し訳ございません……」


 ランスロットがしゅんと落ち込む様子を見たアーサーが疲れきったように頭を掻いた。


「どうやら、正真正銘の天然らしいな……あのな、ランスロット、まず、第一に、だ。父上に魔術関係の話は二度とするな。いいな!」

「何故ですか?」

「何故も何も無い!とにかく駄目なものは駄目だ!」

「ですが、僕の出自は魔術師とは関係なく、ただ妖精ですから魔法と無関係かと言われれば確かに語弊が生じますが……」

「そ、れ、か、ら!そういう意味不明な発言も避けろ!ここは王宮だぞ!わかっているのか!」

「はい、勿論心得ております」

「……言っておくが、地理的な話では無いからな……」


 ランスロットとアーサーの会話は成り立っているようで、噛み合っていない。

 だが、憧れのアーサー王子と話せたことが嬉しくてしょうがない様子のランスロットは笑顔のままだ。

 とても怒られている側には見えない。

 すっごい……天然なの……?

 佐和は怒鳴り散らすアーサーの前でにこにこし続けているランスロットに呆れた。


「さっきの、本当?湖で育ったって」

「おい!マーリン!」


 アーサーが止めるのも聞かず、マーリンはランスロットに疑問を投げ掛けた。問われたランスロットも笑顔のまま頷く。


「はい、その通りです。えっと……」

「マーリンだ」

「マーリン殿」

「ランスロット……それは本当の事なのか?湖の近くの屋敷ではなく、湖に住んでいたとは一体どういうことだ?」


 アーサーはランスロットを止める事を諦めたのか。洗いざらい話させてすっきりさせ、他の人間に迷惑が掛からないよう窘めるつもりなのかわからないが、疑い半分で話の続きを促した。


「僕は湖の妖精に育てられたんです」

「……それがどういう意味か聞いているんだがな……」


 遠慮なく顔をしかめ頭を抱えたアーサーに対して、マーリンの目はどこか輝いている。

 妖精が見える?

 思い出すのは書記室の秘密の部屋にいるバンシーとブラウニーだ。佐和には見えず、魔術師であるマーリンには見えていた『隣人』達。

 それって……魔術師って事?でも、本人は魔術師じゃないって……。


「……意味の分からない事を言うなと、さっき言ったばかりだろうが!!」

「殿下がお伺いするからお答えしたのですが……」

「俺が求めたのは常識的返答だ!」


 アーサーの雷がランスロットに落ちる。

 これは……長引きそうだ。

 佐和の予想通り、長い長いランスロットへのアーサーのお説教が開始した。




本日二話更新予定です。

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