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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 湖のランスロット
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      ***



 予想外の試合が終わり、最後に闘技場の真ん中に立っていたのは―――ランスロットだった。

 コンスタンチン卿は地に仰向けに倒れている。

 誰もが予想もしなかった結末。

 彼は的確に、そしてしなやかにコンスタンチン卿の刃を受け流し、圧倒的な技術で歴戦の騎士を倒してしまったのだ。

 戸惑う会場に向けて、ランスロットが笑顔を向ける。困惑していた観客からも徐々に拍手が生まれ、やがて大きな歓声が巻き起こた。

 その圧倒的な声量を受けても、ただ純粋に楽しそうな笑顔でいるランスロットが、最早田舎から夢見て、ただ王都に出てきただけの少年に見えるはずがない。

 何者なんだろう……。

 ランスロットは剣を収め、ウーサーとアーサーに向き直り、一礼した。一般市民にはとても見えない手慣れた礼。

 その時、顔を上げたランスロットとグィネヴィアの視線がまた交差する。

 彼は周囲の観客に向けていたのと同じ、人懐っこい笑みでグィネヴィアに頭を垂れてから、会場を後にした。


「あの年で、あの剣技……。不思議な人物だな」

「でも、悪い奴には見えない」


 唸るイウェイン、それに答えたマーリンの意見に佐和も同意見だ。

 どう見ても人に害を及ぼすようなタイプには見えない。


「ま、それもフリって可能性も一応考慮しておけよ。今回の大会はただの大会じゃないんだ。イウェイン、用心するに越したことは無い」

「言われずともわかっている。手は抜かん。例え、相手が誰であろうとな」


 イウェインの強気な態度にケイが首をすくめ、やれやれと言わんばかりに両手を挙げた。

 はっきり心配だって言っちゃえばいいのに……ま、ケイの性格じゃ、無理か。

 本当にもどかしい二人だなぁ。


「休憩挟んだら次、二回戦目だよな?またイウェインの試合からなのかー?」

「あぁ、私は準備に入る」

「がんばってね、イウェイン」

「ありがとう、サワ。それじゃ」


 それだけ告げたイウェインは武装のために参加者控えのテントへと向かって行く。それを見送った佐和は横にいたケイに質問を投げかけた。


「ケイ、今のところ怪しい人って誰かいる?」


 この大会には大きな思惑がある。ゴルロイス及びモルガンの一味をおびき寄せる事だ。

 だが、その目的がわかっていても、佐和やマーリンは王宮の関係者に詳しくない。誰も彼もが怪しく見える。


「うーん……先入観を与えるのもどうかと思って、何も言わないつもりだったけど……まぁ、知っといた方が気付ける場合もあるか……」


 ケイは手に持っていた食べ物をガウェインに預け、トーナメント表を指さした。


「まず大きく分けて二つのブロック、イウェインがいる方から説明するぞー。負けてったやつはもう省いて良いだろう。実力的にも刺客とは思えない連中ばっかりだったからな」


 確かに一回戦はイウェインやランスロットなどの例外の参加者の試合が派手すぎて、他の試合はもう思い出せるかも怪しい。


「次、第二回戦、いわゆる準々決勝だな。最初はイウェイン対ボール卿。ボール卿はさっきも言った通り昔からの陛下の騎士で、まぁ……有体に言えば、うちでいうところのガウェインみたいなタイプだ」

「なるほど。疑わなくても良し、と」

「え!?そんな、褒めんなよ!照れんだろ!!」

「今のサワの発言は賞賛の言葉じゃないと思う」

「嘘だろ!?」


 喚き散らすガウェインを放置して佐和は厳つい身体つきの年老いた……といっても、老いたと呼べるような筋肉ではなかった老齢の騎士の顔を思い浮かべた。

 確かに何かの陰謀で参加したというより、久しぶりの大会を心底楽しんでいたように見える。


「まぁ……完全に白とは言わない方が良いだろうけど、かなり薄いな。そういった細かい謀略とかは向かない御人だから」

「ふむふむ」

「次に全身鎧で素顔を隠したネントレスという人物。これと次当たるのは、陛下の騎士の中で最も付き合いの長いウルフィン卿だ」

「あのネントレスって鉄仮面怪しくねえか?」

「確かに見た目だけならガウェインの言う通り怪しい人物ナンバー1だ……ただ、あの鉄のヘルム、今は使わないだけで、古い騎士なら一般的な武装とも言える。見た目だけで疑うのは早計かもしれない……」

「でも、疑わないわけにもいかない」


 マーリンの確認にケイが頷いた。

 今の所、最も出自が不明で怪しいのは、あのネントレスという鉄仮面の男だ。


「ウルフィン卿はどういう人なの?」

「んー、一言で言い表しがたいなー……良い意味で言えば、忠誠心が高い人物だけど……」

「アーサーには?」


 私より先に、マーリンがウルフィン卿がアーサーの味方かどうかケイに聞いてる……!

 これは最初の頃から考えればすごい進歩だ。思わず感極まってしまう。


「……こりゃ、また難しい質問で……なんというか……まぁ」


 そこで言葉を濁したケイは佐和とマーリンを手招きした。観覧席から少し離れ、人影の無い会場の壁の裏に集まる。ガウェインも後ろから付いて来た。


「大きな声じゃ言えないけど……悪く言えば、ウーサー王の金魚の糞だな」

「腰巾着ってことか?」


 金魚の糞とか、腰巾着ってことわざのはずなのに……。

 深く考えていなかったが、もしかしたら佐和と彼らの言葉が通じるのは、実は彼らは別の言語を使用していて、佐和の知識で最も近い意味の日本語に置き換えて聞こえているのかもしれない。

 けど、逆に私の俗語は通じないんだよなー。マーリンよく首傾げてるし。変なの。

 だが、今はそんな事を考えている状況ではない。意志の疎通に問題は無いのだから。

 佐和は疼きそうになった知的好奇心を抑え込んだ。

 そんな佐和の内情も知らず、ケイは困ったように笑いながら話を元に戻している。


「まー……ウーサー王の命令は絶対。ウーサー王は正しい。みたいな騎士だな」

「結構頑固だよなー。叔父上のためってなると、ウルフィン卿って何でもやっちまうし」

「そうなると、ウルフィン卿がモルガン達の内通者の可能性は低い」

「マーリンの言う通り。今大会の出場者の中でイウェインの次に敵である可能性が低い人物と言っても過言じゃない。この後イウェインがボール卿に勝てば、明日この二人のどちらか勝者とイウェインが闘う事になる。」


 それだけ言ったケイが元の閲覧席に戻るのに三人も付いて行く。そこへちょうどイウェインが会場に入場して来るところだった。


「あ、イウェイン!」

「イウェインの試合始まっちゃうし、隣のブロックの話はまた後でにするか」


 話を一旦切り上げた佐和達は闘技場に今一度舞い戻った凛々しい女性騎士に声援を送った。




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