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午後のブロックにはウーサーの騎士も多い。が、金貨100枚に目が眩んだ参加者も腕に覚えのある者ばかりのようで、拮抗した試合が多かった。
でも……心臓に悪いっ……!
横にいるガウェインは盛り上がり、純粋に拳を突き上げて楽しんでいるし、ケイやイウェインは出場者の出自や剣術について語り合っている。マーリンはただ淡々と試合を見ながら辺りを警戒しているが、佐和は一人で内心おろおろしていた。
きっかけは第二ブロックの二試合目、ウーサーの騎士がごろつき風の男との闘いでトドメを刺した事だ。
闘技大会の勝敗の決し方にはいくつか判定基準がある。
例えば、気絶のように闘いの続行が不可能と審判が判断した時。もしくは棄権。そして最後に相手が死んだ時だ。
相手を殺すのをスポーツだとは思えないよ……!
勿論、多くの市民も佐和と似たような感想は持っているようで、トドメを刺された瞬間は落胆の声の方が大きい。
しかし、次の試合が始まれば、その事はすっかり無かったように盛り上がるのだ。
何で、人が死んだのに……こんなにすぐ切り替えられるわけ……?
そんな事を考えている内に気が付けば、試合は第二ブロックの一回戦最終戦になっていた。対戦者が入場した途端、会場が戸惑いはじめる。
「あ、あれって……」
堂々と入場して来たのは、開会式でも相当目立っていた少年だ。
これだけの大観衆に注目されているとは思えないほど、緊張した様子もなく、いたってしっかりとした足取りで会場の中央に進み出る。
身に着けている鎧も武器も、佐和が見慣れた王宮の訓練用の物だ。どうやら借りたらしい。
その事にウーサーもアーサーも気付いたようで、目を丸くしている。
「……その者」
普通なら審判が両者の名を名乗って試合を開始するだけだが、さすがに見兼ねたウーサーが少年に声をかけた。
「はい?何でしょうか?国王陛下」
少年は見た目の幼さとは裏腹に、ウーサーに対してしっかりと洗礼された動きで挨拶をした。その動作の優雅さにウーサーはさらに驚いている。
「その……確かに今大会、年齢制限は設けておらぬ。しかし、良いのか?命を落とす危険もある。これはままごとでは済まされぬ神聖な剣技の大会なのだぞ」
「勿論です。国王陛下。陛下の名に恥じぬ闘いを行うと命を持って保証いたします」
ウーサーは答えない。本心としては不服なのだろうが、今さら少年の出場を取り消すわけにもいかない。
目線だけで開始を促したウーサーの合図を受け取り、審判が頷いた。
「それでは両者、距離を取れ!第二ブロック一回戦最終試合、コンスタンチン卿対湖のランスロット、勝負開始!」
ランスロット……!?
信じがたい名前に佐和は身を乗り出した。