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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 キャメロット闘技大会~初日~
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       ***



「イウェイン!初勝利おめでとう!」

「サワ」


 闘技大会の出場者には会場横に控えのテントが一人一つずつ与えられている。

 イウェインのテントに入った佐和はイウェインとハイタッチをした。

 初めての友達とのハイタッチにイウェインは戸惑いながらも嬉しそうにはにかんでいる。


「ありがとう。見守っていてくれたのだな」

「うん!速すぎて私には全然見えなかったけど」

「イウェイン、素晴らしい結果だったぞ」


 そこへテントに入って来たのはアーサーだ。イウェインは急いでしっかりと立ちなおした。


「ありがたきお言葉です。殿下」

「そう硬くなるな。本当によくやってくれた……!」

「アーサー、笑い方が酷い」


 マーリンがそう突っ込むのも無理はない。アーサーは完全に悪役顔で低い笑い声を漏らしている。ウーサーに憂さ晴らしできたのが、よっぽど爽快だったらしい。

 その様子にはイウェインも苦笑するしかない。


「無理もないだろう……?見たか、父上のあの表情、痛快だったぞ」

「で、殿下……」


 イウェインが宥めるが、よっぽどアーサーにとっては快感だったようだ。

 今までに見たことがないほどすっきりした顔つきになっている。

 正直、私もすかっとしちゃったしなー。


「それは確かに」

「初めて気が合ったな、マーリン」


 あっさりとそれだけ言ったアーサーはすぐに背を向けた。


「あれ?もう行っちゃうんですか?」

「ああ、一応俺の騎士とはいえ、あまり参加者に肩入れしているところを見られるわけにはいかないからな。イウェイン、引き続き結果を楽しみにしているぞ」

「……はいっ!」


 アーサーの激励で感極まるイウェインは微笑ましい。

 アーサーがテントから出て行ったのを見送った佐和達はイウェインが武装を外すのを待った。


「イウェインはこの後どうするの?」

「第二回戦までは他の者の試合を観戦しようと思う。相手の手の内も見ておきたいしな」

「なら、俺たちも戻るか」


 三人はそろってテントを後にした。



       ***



 闘技大会のトーナメントは大きく二つのブロックに分かれている。

 その片方、イウェインのいるブロックから試合は始まっているが、最初のイウェインの試合が衝撃的すぎたらしく、残りの試合はあまり刺激的とは言い難いレベルの闘いだった。

 しかし、イウェインのブロックに他にも勿論強者はいる。退屈そうな会場の空気を改めて沸かせたのは老齢の騎士だった。

 あからさまに賞金目当ての盗賊まがいのような風体の男を相手にしたその騎士の剣技は豪快だった。相手のナイフをそのガタイには似合わない素早さで見切って致命傷を避け、大ぶりの剣で会心の一撃を相手に食らわせたのだ。


「あの人って誰なの?」

「ボール卿だ。国王陛下古参の騎士で、数々の戦で功績を残されている」

「へー」

「ま、ボール卿は無類のお祭り好きで騒がしい事が大好きだから、いてもたってもいられなくなったんだろうなー」

「あ、ケイ」


 一般観覧席に移動し、イウェインと共に残りの試合を観戦していた佐和達の後ろからケイが割り込んできた。その手には何か飲み物を持っている。


「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう。これ何?」

「ジュース。こういう時って会場の周りに出店が出るんだよなー。意外と美味しいぞー」


 ケイは二つあったコップをそれぞれ佐和とイウェインに渡した。観戦のお供に買って来てくれたらしい。


「こういった事は普通、従者にやらせるものだぞ……」

「いいじゃんかー、別にー」


 そういえばケイの従者って見た事ないけど、一体どんな人なんだろう……。

 佐和はもらった果物のジュースを飲みながらケイの事を盗み見た。

 相変わらず、そこはかとなく謎の多い人物だ。


「動き回るのにいちいち付いて来られるのも面倒だからなー、お、第四回戦始まるぞ。ここはちょっと見といた方が良いかも」


 ケイの忠告に佐和はもらった飲み物を飲みながら不思議に思った。

 コップの縁の向こうに見える入場者は先程のボール卿のように外見からして強そうなわけではない。


「やはり、貴様もそう思うか」

「何かあるのか?」

「見ればはっきりするさー」


 入場して来たのは、一回戦のイウェインの相手と似た傭兵風の男だ。この大会で一旗あげようと意気込んでいるのが伝わって来る。もう一方の人物は―――確かに、注目せざるをえない姿だった。

 佐和の中で中世ヨーロッパといえばまさにこれに限る。十字の入った鉄のヘルムに鉄の鎧で全身を覆っていて、年齢どころか性別すらわからない。ただ、体つきから言っておそらくそれなりに年季の入った男性だと推測できるぐらいだ。


「あいつか」

「あぁ、只者では無い気配がする」


 マーリンもイウェインも謎の鉄仮面の戦士に鋭い注視を送っているが、佐和に第六感のようなものは何も無いので、ただ鎧が動いているようにしか見えない。


「それでは第四回戦、ネントレス対カーミエルの闘いを始める!試合開始!」


 傭兵風の男がカーミエル、謎の鉄仮面がネントレスと言うらしい。

 審判の宣言で互いが剣を向け合った。両者共になんの変哲もない一般的な両刃剣だ。


「おらぁ!!」


 先に仕掛けたのはカーミエルだ。その一撃を的確に剣で受け流したネントレスが反撃し、激しい金属音と共に互いに剣を打ち合う。


「私から見ると良い勝負に見えるんだけど……」


 正直元の世界では剣なんて生で見たこともない佐和にはどちらが優勢かわからない。横で見ている三人に問いかけると、三人もそれぞれ難しい顔つきで試合の流れを見ている。


「……俺にも同じくらいの力量に見える」

「私は鉄仮面の男の方にただならない気配を感じていたのだが……気のせいだったのだろうか」


 マーリンもイウェインも首を捻っている。だが、そんな佐和達とは対照的に拮抗したこの闘いは観客からすれば面白い勝負のようだ。各方面から声援とも野次とも取れるような声が飛び交う。

 それはウーサーも同じで、愉快そうに二人の戦士の斬り合いを見物している。

 佐和はその横のアーサーの顔を盗み見た。アーサーも難しい顔でこの闘いを見守っている。

 その瞬間、会場が一気に沸き立った。

 慌てて試合に目を戻すと、カーミエルの攻撃を弾いたネントレスがカーミエルの剣を打ち払った所だった。カーミエルの手から剣が宙を舞う。全身鎧で覆ったネントレスの表情はわからない。しかし、カーミエルの喉元に剣を静かに突きつけた。


「勝者!ネントレス!!」


 審判の宣言でまた会場が盛り上がる。だが、イウェインやケイ、さらにはアーサーがわざわざ注目するような力を、あの鉄仮面は見せなかった。

 三人の勘違い……?それとも手の内を隠してるとかかな……?

 しかし、いずれにしてもモルガンとは関係ないだろう。魔術と関係していれば、マーリンが感じ取っているはずだ。マーリンもこの闘いは普通の表情で観戦している。


「二回戦でイウェインが勝って、あのネントレスって仮面の男も二回戦を勝ち上がって来たら当たるな」

「なら、直接刃を交えればわかるだろう。奴が何者か。私とお前の杞憂かどうかもな」


 二回戦までは今日中に両方のブロックとも行われる。今のネントレスの闘いがイウェインの所属しているブロックの最期の一回戦の試合だ。

 後は次のブロックの試合か……。

 イウェインが決勝まで行けば当たる相手がいるし、アーサーの側をあまり離れるわけにもいかない。このまま見学コースだろう。


「よ!!やっと見つけたー!!食いもんも買ってきたぞー!!」

「ガウェイン、どこにいたの?」


 後ろから両手いっぱいに食べ物を抱えたガウェインが近寄って来た。佐和やイウェインに直接手渡すわけにいかないので、それを全部マーリンとケイに分ける。


「お前らどこで見てるのかわかんねぇから探し回ったしー。その途中で美味そうでつい買いすぎちまった!皆で食おうぜ!!」

「そんな事言って、どうせ油断して女性とぶつかって気絶でもしてたんだろー?」

「何でわかったんだ!?ケイ!預言者か!?」

「預言者は事が起こる前に予言する人じゃないか?」


 マーリンの適格な突っ込みにケイも佐和も笑う。

 ガウェインも合流し、佐和達は引き続き後半ブロックの観戦に勤しむ事にした。




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