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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 キャメロット闘技大会~初日~
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       ***



 闘技大会の会場は円系、取り囲む客席はひな壇になっていて、後ろの席の人も戦いが見られるように工夫されている。一部は立ち見席になっており、そこから一般市民も大会を見物できる。

 大きな鐘の音とともに会場が湧きあがった。

 まず登場したのはウーサーと、続いてアーサーだ。

 闘技場の正面、特別に作られた貴賓席の前に二人が並び立つ。その横の特別席にはすでにグィネヴィアが腰掛けていた。相変わらずの美貌でちょこんと緑のドレスで腰掛けている。

 佐和とマーリンは従者控えの場から貴賓席を見守っていた。

 ……そう言えば、イグレーヌ王妃は見物に来ないんだ……。

 貴賓席に元からイグレーヌ用の椅子は無い。魔術師強制収容所では普通の素振りだったが、王宮では離塔で療養している。

 不老の呪いって言ってたけど……強制収容所じゃ、普通の様子だった。

 何で王宮ではあんなに大人しくしてるんだろ……?アーサーとも時々しか面会できないみたいだったし……。


「皆の者、静粛に。ウーサー王よりの御言葉である」


 佐和の思考は審判の大声に遮られた。興奮でざわめいていた観客も静まりかえる。その様子をゆったりと見渡したウーサーが片手を挙げた。


「皆の者、本日ここに集まった戦士は、己の武勇を証明しに来たつわもの達である!彼らの武勇に共に感銘しようではないか!」


 会場から拍手が起きた。といってもウーサーの演説に感動したというより、早く開催しろーという感じだが。


「この闘いにおいて優れた結果を残した者には然るべき栄誉を与える!なお、その中で最も抜き出た者―――つまり優勝者には金貨100枚の恩賞と、前回大会優勝者、我が息子アーサーに挑む権利を与える!それでは、戦士の入場だ!!」


 ウーサーの開催宣言に観客の歓声が鳴り響く。その歓声を浴びながら、参加者が続々と入場した。

 うわ……皆、強そう……。

 あからさまに戦い慣れた様子の傭兵。何度か見かけたことのあるウーサーの騎士。一旗あげようと意気込む流れの戦士。厳つい体格の男達が何人も入場する中、会場がざわめいた。

 来た……!

 登場したのはイウェインだ。

 観客は見たことも無い女性戦士に興奮と戸惑いを隠しきれていない。興味津々でイウェインを注視している。

 佐和とマーリンはがいる貴族たちが座る席の端っこの従者控えの場からでも貴賓席のウーサーの顔色が変わったのがよく見えた。

 威厳も何もない。顎が外れるほど驚くというのはああいう顔の事を言うに違いない。

 ぽっかりと口を開けたまま、イウェインを目で追っている。

 隣に座ったアーサーが父親の驚愕に気付いているはずだろうに、しれっとした顔で会場を見ているのがおかしい。

 内心、爆笑してるくせに……!


「ざまぁ」

「マーリン……お願い、もうちょっとオブラートに包んで……私まで笑っちゃう……」

「おぶらーと?」


 佐和も懸命に笑いを堪える。

 これほど呆気にとられているウーサーを見るのは初めてだ。

 いやー、予想以上にすっきりするわ、これ。

 佐和達が密かな意趣返しに成功している間に、登場した他の戦士たちもイウェインに戸惑っている。

 しかし、イウェインはもう集中力を高めているらしく、周囲の雑音は気にしていないようだ。真っ直ぐ綺麗な姿勢で待機している。

 これで終わりかと思った瞬間、最後の出場者の登場に会場中がまた騒がしくなった。


「何だろう……?」


 会場を覗いた佐和の目に驚愕の光景が飛び込んできた。最後の出場者は―――少年だった。

 はちみつ色の柔らかそうな髪、爛々とした瞳は緑に輝いている。童顔で可愛らしい顔つきにも関わらず、佇まいのせいか非常に大人びた雰囲気を放つ異彩の人物だ。


「……若いね」

「うん」


 マーリンも戸惑っている。

 少年本人は全く会場の動揺を気にしていない。わくわくした様子で参加者の列に並んだ。

 戸惑う他の参加者を余所に、少年の目がウーサー、アーサーの順に移って行く。そして、アーサーと目が合った途端、少年が嬉しそうに破顔した。アーサーはそれに対して不思議そうに眉を潜めている。

 さらに、少年の視線がそのまま横に移動していく。自然と次はグィネヴィアと目が合うことになる。それを佐和は従者控えの場から身体を伸ばして見ていた。

 グィネヴィアは少年を不思議そうに見ている。しかし、少年はグィネヴィアと目を合わせた途端、にこっと柔らかい笑顔を浮かべた。

 見る者を惹きつけてやまない魅力溢れる表情。

 その笑顔にグィネヴィアの瞳が吸い込まれるように引き寄せられている。

 ……もしかして。

 佐和の中で嫌な予感がよぎる。

 しかし、その考えを急いで頭から振り払った。

 想像して口に出せば、現実になるような気がしたからだ。

 でも……そんなわけないよね……?だって、まさか……こんな少年が……違うよね。


「静粛に!これより対戦相手を発表する!」


 司会者の横に大きな板が立てかけられた。佐和もよく見たことがある。トーナメント表だ。一番下の段に参加者の名前が鎧につけた布と同じ色の板に書かれている。

 アーサーの事前情報によれば、対戦相手は純粋なくじで決められたものなので、恣意的なものは何も無いらしい。


「この表の左側より順次第一試合を始める!他の選手は見学に回るか、控え用のテントに移動するように!それでは第一試合、サグレモール・オレット対イウェイン・アストラト卿。両者前へ!」

「い、イウェインいきなりじゃん!!」

「サワ、落ち着いて」


 隣にいるマーリンが宥めてくれるが、今にも佐和の心臓は爆発しそうだ。

 最初なんて、私だったら緊張しすぎておかしくなっちゃう!

 呼ばれて前に進み出たのは厳つい傭兵風の男とイウェインだ。美女と野獣という形容がぴったりの対戦カードに会場中がどよめく。

 他の参加者は下がり、会場には二人だけが残った。


「両者向き合い、互いに数歩、距離を取れ!」


 言われた通りに互いに数歩下がり、向かい合う。サグレモールと呼ばれた男はいやらしくにやついている。


「こりゃ、傑作だ。まさか初戦の相手が女だとはな!」


 サグレモールは自分より小柄なイウェインを見下ろして鼻で笑っている。余裕が溢れんばかりの表情だ。

 一方のイウェインは静かにその口上を聞き流している。


「俺の名はサグレモール!悪いが、この勝負、もらうぜ!そんで金貨100枚は俺の物だ!」

「アーサー殿下が騎士、イウェイン・アストラト参る」

「……え?騎士?」


 イウェインの名乗りに男が不意をつかれた。驚いて武器の構えが甘くなった瞬間、開始の鐘が鳴り響く。


「第一試合、開始!」


 勝負は、ほんの一瞬だった。


「……え?」

「な……?」

「ん……?」

「……おい…………今、何が起きた…………?」


 戸惑う会場の中央でサグレモールが仰向けに気絶している。

 イウェインは開始時に立っていた場所からサグレモールの背後に移動して、剣を既に鞘に収めていた。


「ぜ……全然、見えなかった……。マーリン、見えた?」

「うん」


 マーリンの目には何が起きたか見えていたようだ。


「開始の鐘が鳴った瞬間、イウェインが鞘ごと剣を腰から抜いて、あの男の顎めがけて思いっきり一撃食らわせた」


 ……すごすぎる。

 佐和と同じように戸惑っていた会場も、やがて勝負の結末にようやく理解が追いついたようだ。


「……だ、第一回戦、勝者イウェイン・アストラト卿!」


 審判の宣言に会場が一気に沸いた。まさかの女性騎士の圧勝に観客が沸き立つ。

 見てみると、ぽっかりと口を開けて事態に未だについていけないウーサーの顔を見て、アーサーがほくそ笑んでいる。


「勝ったのはアーサーじゃないのに、勝ち誇った顔してるよ……」

「ムカつく顔してるな」


 呆れた佐和の横でマーリンもアーサーを睨みつけている。が、アーサー本人はこの結果に非常に満足げだ。

 歓声を受けるイウェインが長く息を吐き出し、ウーサーとアーサーに一礼して退場する。会場の盛り上がりはいきなり最高潮だ。


「ねぇねぇ、マーリン。イウェインのところ行こ」

「わかった」


 各試合の間には少し休憩時間が設けられている。

 マーリンを連れて佐和は、イウェインの初勝利を祝いに、選手控えのテントへと向かった。




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